「悪いな、夕凪まで巻き込んで」


何を今さら。
俺はとっくに巻き込まれてて、いつの間にかそれが当然のように馴染んでしまってる。


「それよりさ、雛月に勝てないって分かってんのに練習する意味あるの?」


本気の雛月には敵わないと断言したのは風沢だ。

だからきっとこの勝負も形だけ。ただの口実だと思っていた。


「手ぇ抜いたりしたらヒナに失礼だろ」



雛月にとってピアノは、たった一度のミスさえ許せない程真剣に向き合ってきたもの。


たとえ勝てないと分かっていても、手を抜いて挑めば雛月を侮辱するのと同じこと。


誰よりも近くで見ていた風沢が一番よく知っている。


だから必死なんだ。