あれだけモテるのに、結衣に彼氏がいた事は無くて、
いつだったか、『人を好きになるってどういう事かわからない』って言ってた事もあったから…
少し心配してたんだけど、さっきの光景を見て安心した。
あれは、恋する乙女の顔だ。
本当に良かった。
まだ何も教えてもらえてないのは少し、寂しいけど。
信じてるから大丈夫。
いつか話してくれるって。
「顔、にやけ過ぎ。」
「うるさいな、人の幸せに水差さないでよ!」
「ふーん…
で?
誰にそんな口きいてんねん?」
私にだけ聞こえるような、低い声で呟く透。
何か、やな予感…
すると、透の目がいきなり涙目になった。
「ごめんな?
もう言わんから…怒らんとって?」
その弱気な口調とは裏腹に、大きめな声で話すばかりか、わざとらしく鼻を啜っている。
「えー、」
「彼氏かわいそー!」
周りの野次馬の声が聞こえる。
私に向けられた冷たい視線が、更に痛い。
だから…
かわいそうなのは私だってば!
(しかも彼氏じゃないっ!)
「ひどいねー」
「ねー?」
うぅ…
「…すいませんでした。」
ガクリとうなだれながら頭を下げ、様子を伺うと…
そこには、勝ち誇ったかのように、満面の笑みを浮かべた透。
こ…んの…小悪魔っ!