慧は学校が終わり、家に帰って自分の部屋に入っていった。

「はぁ~。今日はさんざんな一日だった。テレビでも見て気分転換でもするか。」

そう言いながらテレビの電源をつけた。

しかし、いつもならちゃんと番組が映るのに今日は何も映らなかった。

不思議に思った慧は、テレビに近づいて調子を見ながら言った。

「ん?おかしいな。いつもなら映るのに。ついにこのテレビも壊れたか?」

そんなことを言っていると、テレビの電源が入った。

しかし、何かがいつもと違った。

どこのチャンネルをまわしても、画面は真っ暗なままで何も映らなかった。

「いったいどうなってんだよ…。」

そう慧が言うと、急にどこからか声が聞こえてきた。

「『‘‘ヤットミツケタ’’』」

「…この声、まさか…。」

そうどこからか聞こえてきた声は、慧が夢で見た人影と同じ声だった。

慧があっけにとられているのにかまわず、人影たちは続けた。

「『ナンデ、ボクタチカラニゲダシタノ?』」

「はっ?」

慧はわけもわからず、間抜けな返事をした。

しかし、人影は気にも留めず続けていく。

「『ネェ、ドウシテキミハボクタチガイルセカイニ、クルコトガデキタノ?』」

「『アノトキハキケナッカタ。』」

「『ゲド、イマナラキケル…。』」

その瞬間、さっきまで自分の部屋にいたはずなのに、周りは何もない真っ暗だった。

そう、あの時の夢みたいに。何もない闇の世界。

慧は驚きと恐怖の表情で、人影たちに言った。

「な、なんで…お前らがいるんだよ!!」

「ドウシテキミハ、ボクタチノイタセカイニイタ?」

「ドウヤッテボクタチノセカイニキタノ。」

人影たちは、慧にそう言いながら近づいていく。

慧は近づいてくる人影たちから逃げるように、

一歩一歩後ろに下がって行きながら、人影たちに言う。

「く、来るな!!」







しかし、人影たちはお構いなしに慧に近づきながら話していく。

「ナンデキミハ、ボクタチノスクコトヲトメタ。」

「ネェ、キカセテ…?」

「ドウシテアノトキニゲダシタノ?」

「ドウシテトメタノ?」

「ドウシテ、ドウヤッテボクタチノセカイニイタノカ。」

「ドウヤッテクルコトガデキタノカ。」

「なんなんだよお前らは…。」

「ネェ、キカセテ。」

「ネェ、オシエテ。」

「ハヤクイワナイト…。」

「『コロスヨ。』」

人影たちはそう言うと、慧に向かって刀や鎌、斧など刃物を振り上げました。

それと同時に慧は助けを求め叫んでいました。

「う、うわぁー!!誰か助けてくれー!!」


 慧が助けを求め叫んだと同時に、誰かが慧のところに駆け寄りながら人影に言った。

「やめろ!ブラックブラット!」

その人物が現れた途端、人影たちは慌てながら仲間に言っていく。

「ヤバイ!ミンナカエルゾ!」

「アイツハ‘コウゾク’ノヒトリダ!!」

「ケサレルマエニ、カエルンダ!」

人影たちがそう言いながら、一目散に逃げていく。

しかし、その人物は人影たちを逃がさなかった。

「お前らは、我らが滅する!!」

そう言った瞬間人影たちの姿が跡形もなく消えていた。

それを見ていた慧は、唖然としていた。

そのことに気付いたその人物は慧に話しかけていた。

「怪我は?」

その人物の一言に慧は我に返って、返事をした。

「えっ、あぁ、大丈夫です。」

その一言にその人物は安心した顔になりながら、慧に言った。

「よかった。君が無事で。」

「あっ、助けてくれてありがとうございました。
おかげで、死なずに済みました。えっと…」

「俺はライト・シンフォニー・フィリオ。」

「長いな…。ライトさんでいいですか?」

「さん付けはいらない。それと敬語もな。」

「で、でも…。」

「俺はお前と同じ年だ。穂高慧。」

「そ、そうなんですか!?…っていうかなんで俺の名前知って…。」

「話はここを出てからにしよう。」

「…はい。」

そう言ってライトは何かを唱えたかと思ったら、辺りが急に真っ白になった。

「慧。もう目を開けてもいいぞ。」

そう慧に言うと、恐る恐る目を開けるとそこは慧の部屋だった。

「えっ、俺の部屋…?」

慧が辺りを見回していると、ライトが慧を呼んだ。

「慧。そろそろ話を始めようか。」

「あ、はい。」

そう言うと慧はライトを座らせ自分もライトの目の前に座った。








 慧はライトと向かい合わせで座って、ライトの格好をまじまじと見ていた。

(ライトってどこの人だろ。まさか…コスプレ?)

そんなことを思っていると、ライトが慧に話し出した。

「慧。本当に怪我はしていないんだな?」

「はい。本当にどこも怪我はしていません。」

そう笑顔で答えると、ライトは『ふっ』と笑い、慧に言った。

「あんな目にあったのになぜ、笑っている?」

「確かに怖かったですけど、ライトさんが、助けてくれましたし。

今はあの恐怖はどこかに吹き飛んでしまいました。」

そう答えると、ライトは懐かしそうに慧を見ていた。

そんなことにも気づかず、慧はライトに話しかけていた。

「で話は変わりますが、さっきの人影はいったい…。」

慧がそう言うと、ライトは真剣な表情になって慧の質問に答えた。

「あれは『ブラックブラット』。闇の世界に住む奴らでランクが一番低い奴らだ。」

「闇の世界??」

「俺の住む世界は二つの一族で成り立っている。」

「二つの世界…?」
「一つは俺が住む光界。もう一つはブラックブラットたち闇の者が住む闇界だ。

光界と闇界は対立しているんだ。」

「た、対立?なんでですか?」

「それは俺にも何にも言えない。俺が生まれたときから光界と闇界は対立しててな。」

「そうなんですか。」

そう慧が答えると、今度はライトが質問した。

「慧はなんでブラックブラットたちに追われていたんだ。」

慧はその質問に困ったような顔をしながら答えた。

「さぁ。それは、俺が一番知りたいです。」

その回答にライトは険しい表情になって言った。

「それはどうゆうことだ。」

「俺は学校で居眠りしてて、夢の中でさっきみたいな真っ暗な場所にいて、

気づいたらさっきの人影たちが、いきなり殺し合いを始めて…。」
「それで?」

「俺は考えなしに夢中で止めたんだ。けど、俺の声なんて全然聞こえてないみたいで…。

でももう一度止めたんだ。そしたら今度はやめてくれて、

俺はやっとやめてくれたと思った瞬間、あの人影たち俺に質問攻めしてきて、

俺怖くて目を覚ましたんだ。」

「そこでその学校ってとこに戻っていたんだな。

そして慧はそれはただの夢だと思ったんだな?」

ライトがそういうと慧はうなずいた。

しかし、ライトの表情はいまだに険しい表情なままだった。

そしてしばらくしてライトが話し出した。

「慧に頼みがある。」

「なんですか?」

慧がそう言うと、少し間をおいて決心したように言った。

「慧、俺と一緒に来てくれないか。」




慧はライトの言ったことにしばらく答えられなっかった。

当然だ。いきなり変な人影に襲われ、変な格好をして自分を助けてくれた人が、

急に自分の住む世界に来てほしいと言われたら、誰だって戸惑う。

そして慧は、薄々わかっていながらも、ライトに聞いてみた。

「ライトと一緒にって…?」

「光界にだ。」

慧の予想は見事に的中してしまった。

けれど慧は気になっていたことをいくつか聞いてみた。

「あの、ライトさんのその格好って…。」

「光界の服だが。」

「ですよね…。あと、ライトさん…」

「慧、さっきっから言わなかったが、さん付けと敬語は使うな。」

「けれど…。」

「い・い・な?」

ライトの迫力に押されて慧は、うなずいてしまった。

「わ、わかった。」

慧がそう言うとライトはどこか嬉しそうに笑った。

そして、慧が言いかけたことを聞いた。

「で、さっき何を言おうとしたんだ?」

「あ、えっと、その肩に乗ってるの何?」

「肩に乗ってる?」

「えっ、あっ…なんでもない。」

そう言って慧はライトの住む世界に行くか行かないか考えていた。

同じくしてライトは慧の言ったことに頭をひねっていた。

(俺の肩に何か居るのか?)

そんなことを思っていると慧が再びライトに質問した。

「なぁ、なんで俺がライトの住む世界に行かなきゃならないんだ?」

その質問にライトは丁寧に回答をした。

「慧、普通ならブラックブラットの居る世界に行くことはできない。

特に人間界、つまり慧が住むこの世界の人たちは。

俺たち光界の者ですら行くことが難しいんだ。

なのに人間である慧が行けるってことは、慧はただの、

この世界の人間じゃないかもしれない。

だから慧、君を光界の老師様のところに連れて行って、

慧が何者なのかを確かめたいんだ。」


「…俺が人間じゃない?」

慧が戸惑った表情でそう言うと、慌ててライトが訂正した。

「もしかしたらだ慧。それにこれは俺の憶測に過ぎない。だから深く考え込むな。」

「けど…。」

「それを確かめるためにも、光界の世界に来てほしい。」

慧は決心したようにライトに言った。

「俺は自分が人間だってことを証明しに行くだけだからな。

人間だってわかったらすぐに戻って来るからな。」

「あぁ。けどもしも慧が人間じゃないってわかったら、

この世界に戻ってくるのは難しいかもしれない。」

ライトがそう言うと、慧は強く反論した。

「俺は人間だ!!」

そう言いながら慧はライトの謎の呪文によって出された扉の中に入っていった。
扉に入ってから慧は不安だった。

もし自分が人間じゃなっかたらどうなるのだろうか、

というのが重く慧の心にのしかかっていた。

しかし、慧の心には不安とは逆に安心感があった。

(俺、こんなに不安なのにどこか安心してる。

もしかして、ライトが一緒だからか?)

そんなことを思いながら、出口が見えてきた。

「慧、そろそろ着くぞ。」

ライトがそう言うと、ライトの肩に乗っているものが慧に向かって飛び移ってきた。

それに驚いて慧は後ろに倒れた。

「うわっ!!」

慧の声に振り向いたライトは慧のところに駆け寄って言った。

「どうした慧!?」

「あっ、なんか飛んできて…。」

「何かが飛んできた?」

「ミィ~」

何かが鳴いて、不思議そうな顔をしながら慧を見ると、

慧の頬に何かが擦り寄っていた。

それを見たライトは驚いたように言った。

「フィリー…。なんでここにいるんだ。」

「ミュー♪」

ライトの言葉に慧は謎の動物を抱き上げながら言った。

「こいつフィリーって言うのか?」

「あぁ。光界に存在している生き物で俺が飼っている。」

そうライトが言うと、慧は納得したようにうなずいた。

「なるほど。こいつよっぽっどライトが好きなんだな。

こいつずっと、ライトの肩に居たんだぜ。」

慧がそう言いながら生き物を撫でていた。

その言葉にライトは頭をひねっていた。

(俺の肩にずっと居た…?)

そう疑問に思いながら慧に聞いた。

「ずっとってどうゆうことだ。」

その言葉に慧は素っ気なく答えた。

「ん~。だから、ライトが俺を助けてくれた時からこいつ、

ライトの肩に乗ってたんだよ。」

そう慧が言うと、その生き物は『そうだよ』って言っているかのように

『ミィー』と鳴いた。
(慧は、俺でさえも見えなかったフィリーが見えてたってことか。

…もしかしたら本当に人間界に帰れなくなってしまうかもしれないな。)

そんなことを思いながらライトは歩き始めた。

それに気づいた慧もフィリーと一緒にライトを追いかけた。

扉を出るとそこは光がまぶしくて、目が開けられなかった。

それを見ていたライトは『建物の中に入れば大丈夫』と言い、

慧の手を引きながら歩いて行った。