扉に入ってから慧は不安だった。

もし自分が人間じゃなっかたらどうなるのだろうか、

というのが重く慧の心にのしかかっていた。

しかし、慧の心には不安とは逆に安心感があった。

(俺、こんなに不安なのにどこか安心してる。

もしかして、ライトが一緒だからか?)

そんなことを思いながら、出口が見えてきた。

「慧、そろそろ着くぞ。」

ライトがそう言うと、ライトの肩に乗っているものが慧に向かって飛び移ってきた。

それに驚いて慧は後ろに倒れた。

「うわっ!!」

慧の声に振り向いたライトは慧のところに駆け寄って言った。

「どうした慧!?」

「あっ、なんか飛んできて…。」

「何かが飛んできた?」

「ミィ~」

何かが鳴いて、不思議そうな顔をしながら慧を見ると、

慧の頬に何かが擦り寄っていた。

それを見たライトは驚いたように言った。

「フィリー…。なんでここにいるんだ。」

「ミュー♪」

ライトの言葉に慧は謎の動物を抱き上げながら言った。

「こいつフィリーって言うのか?」

「あぁ。光界に存在している生き物で俺が飼っている。」

そうライトが言うと、慧は納得したようにうなずいた。

「なるほど。こいつよっぽっどライトが好きなんだな。

こいつずっと、ライトの肩に居たんだぜ。」

慧がそう言いながら生き物を撫でていた。

その言葉にライトは頭をひねっていた。

(俺の肩にずっと居た…?)

そう疑問に思いながら慧に聞いた。

「ずっとってどうゆうことだ。」

その言葉に慧は素っ気なく答えた。

「ん~。だから、ライトが俺を助けてくれた時からこいつ、

ライトの肩に乗ってたんだよ。」

そう慧が言うと、その生き物は『そうだよ』って言っているかのように

『ミィー』と鳴いた。
(慧は、俺でさえも見えなかったフィリーが見えてたってことか。

…もしかしたら本当に人間界に帰れなくなってしまうかもしれないな。)

そんなことを思いながらライトは歩き始めた。

それに気づいた慧もフィリーと一緒にライトを追いかけた。

扉を出るとそこは光がまぶしくて、目が開けられなかった。

それを見ていたライトは『建物の中に入れば大丈夫』と言い、

慧の手を引きながら歩いて行った。
 
そして慧とライトはある建物の中にいた。

「本当に中はまぶしくないんだな。それに俺が見たことないものばかりだ。」

そんなことを口にした慧は、ものすごくうずうずしていた。

見たことのない生き物に植物、人々の格好に空中に浮かんでいる本やろうそく。

慧にとっては見るものすべてが新鮮で、面白くて自然と笑顔になっていた。

そんな慧を見てライトはおかしそうに笑いながら言った。

「ははっ、気に入ってもらえたみたいだな。それに楽しそうだ。」

その言葉で慧は気づいた。

(俺何やってんだよ!あまりにも珍しいものばかりで、はしゃぎすぎてた!)

そう思いながら、ライトの言葉を否定した。

「べ、別に気に入ってない!楽しくもない!俺がここに来たのは、

自分が人間だってことを証明するために来たんだ!

だから、楽しいとか気に入ったってのは断じてない!!」

顔を真っ赤にしながら否定する慧を見て、

ライトは笑いながら『そうか。』って言った。

そんなやり取りをしながら、長い長い廊下を歩いていた。



二人は大きく頑丈そうな扉の前にいた。

(で、でかっ!)

慧がそう思っていると、ライトが慧に注意をしていた。

「慧、この先に老師様が居る。

くれぐれも反抗的な行動や、言動をするなよ。」

「わかった。」

「よし。入るぞ。」

そう言ったライトは扉を開けて中に入っていった。

慧はフィリーを抱えながら、ライトの後に続いて入っていった。

部屋の奥にはひげが長いおじいちゃんが居た。

「老師様。ただいま帰りました。」

(このおじいちゃんが老師様…。)

「あぁ。よく帰ったなライト。奴らは退治できたのか?」

「はい。なんとか。」

「そうか。ところで、隣にいる少年は?」

(そ、そこで俺!?)

「彼は穂高慧。奴らに襲われそうになっているところを助けなんです。」

「は、初めまして。穂高慧です。」

「うむ。わしは、この光界の長じゃ。」

「えっ?長…ですか?老師様じゃなくて?」

その言葉を聞いたおじいちゃんは、『ほほほっ。』と笑いながら

優しい顔で言った。

「老師と名を付けたのはライトじゃ。」

「えっ!?」

「その話はまたじっくり話そう。」

(そ、そこで保留!?)

そんなことを思っていた慧に、さっきの優しい顔とは別に険しい顔で話した。

「話は変わるが、なぜ奴らに襲われたんじゃ?」

(うっ、一番今キツイことを…。

でも、正直に話せば大丈夫だよな?)



そうして決心したかのように老師様の顔を見ながら話した。

「なんで俺が襲われたのか、俺自身が知りたいです。」

「どういうことじゃ?」

「そ、それは…、なんというか…。」

どう答えていいのか困ってしまった慧に、

ライトは優しく耳打ちをした。

〔俺に話したように話せばいい。

老師様は、どんな話でもきちんと聞いてくれる。〕

ライトの言葉に慧はうなずき、話し始めた。

「これから話すことは、俺がこの世界に来ることとなった経緯を話します。」

そう言うと、老師様は『うむ。』と言い慧を見ていた。

「俺は学校の授業中居眠りをしていて、夢を見ました。

その夢はどこを見渡しても真っ暗で、どんなに叫んでも、呼んでも、

なんの返事もありませんでした。だけど少しずつ目が慣れてきた時でした。

俺から少し離れたところに、人影が見えたんです。そうして気が付いたら、

その人影たちはどんどん俺の周りに集まってきて、人影同士で殺し合いを始めたんです。

俺はとっさに止めました。けれど俺の声は聞こえてなくて殺し合いを続けていました。

でも俺は殺し合いなんかやめてほしくて、もう一度止めたら人影たちは、

殺し合いをやめました。そうしたら急に人影たちは次々と俺に質問してきて…。

俺怖くて目が覚めたんです。」

「それでそのあとどうしたんじゃ?」

「そのあと学校が終わって、家に帰って自分の部屋でテレビを見ようと

電源を付けたんですけど、何も映らなくて…。そしたらまた人影が出てきて、

夢で見たのは本当のことだったんだってわかって、

その人影たちに殺されそうになったところをライトが助けてくれて、

今の俺が存在しているんです。そして気が付いたら俺とライトは、

俺の部屋にいて夢で見たことを話したら、ライトが急に自分が住んでいる

世界に来てくれって。理由を聞いたら、俺はもしかしたら人間じゃないかもしれない

なんて言われて、それで俺は人間だって証明するためにこの世界に来たんです。」

すべてを言い終わった慧はため息を吐き、老師様を見た。

しかし老師様は驚いたような顔をしていた。

(俺もしかして変なこと言った???)

そう思って慧はライトを見た。

けれどライトも老師様の反応を待っているかのような顔をしていて、

声をかけることができなかった。

そして老師様は慧に質問をした。

「慧が見た人影というのは、ブラックブラットのことか?」

「ライトが言っていたのはそんな名前でした。」

「まさか人間界に住む者が見えるとは…。」

「あ、あの何かあるんですか?」

「わしらは今まで人間界に住む者が、ブラックブラットを見たとの

話を一度も聞いたことがないんじゃ。」

「え?」

「だからわしでも慧が人間か人間ではないかとは判断できんのじゃ。」

「そう…ですか。」

「すまんの。なんの力にもなれんで。」

申し訳なさそうに老師様が言ったのに対して慧は明るく、

『話を聞いてくれただけでも俺は、

嬉しかったんで気にしないでください。』と言った。



そして老師様はライトに言った。

「ライト。慧は疲れておるじゃろうから、

部屋に案内して休ませてあげなさい。」

「わかりました。」

「慧を部屋に案内したら大事な話があるからすぐに、

わしのところに来なさい。」

「はい。わかりました。」

二人のやり取りが終わったと思い慧は老師様に言った。

「あ、あの…。」

「どうしたんじゃ?」

「勝手なこととはわかっているんですが、俺家に帰りたいんですが…。」

「すまんがそれはできん。」

「えっ!?なんでですか!?」

「また、ブラックブラットに襲われたらどうするんじゃ。」

(た、確かにそうだけど…。)

そう思っているとライトが慧が思っていることが分かったのか、

少し笑いながら言った。

「慧。もしかして両親のことを心配しているのか?」

「えっ!?なんで!?」

その慧の反応にライトは笑いをこらえながら言った。

「慧は思ってること顔に出やすいからな。」

「ま、まじか!?」

「あぁ。それに心配はいらないと思うぞ。」

「は?なんで?」

「ここに来る前、慧そっくりの分身を置いてきたからな。」

「はぁぁ!?い、いつの間にそんなことを…。」

「だからここにいても大丈夫だ。…多分な。」

「た、多分って…。」



慧は呆れながらもどうしようかと悩んでいた。

それに対し老師様は優しく慧に言った。

「そういうことじゃ。慧、今日は疲れたじゃろう。

ゆっくり部屋で休みなさい。」

(ん~。なんか断るのも悪いよな…。)

そうして慧は『じゃぁ、お言葉に甘えて休ませていただきます。』と言い、

ライトと部屋を後にした。

二人の出で行く姿を見ながら老師様は考えていた。

(慧はもしかしたら…。いや、今は様子を見ようかのぉ。)

そうして老師様は奥の部屋へと姿を消した。
その頃、慧はライトに案内され部屋の中にいた。

「ここが慧の部屋だ。風呂やトイレ、ベッド必要なものは全部そろっている。」

「ひ、広い。ライト、この部屋俺が休むには広すぎるぞ。

もう少し小さい部屋のほうが…。」

「老師様が用意してくださった部屋なんだが。」

「…なんでもない。ありがたく使わせていただきます。」

「ふっ、慧は面白いな。・・・っとそろそろ行かなきゃ。」

「どこに行くんだ?」

「ん?あぁ、さっき慧を部屋に案内し終わったら、老師様に話があるからと呼ばれててな。だから俺は戻るけど、何ああったらそこにある赤いボタン押せよ?すぐ駆けつける。」

「お、おう。わかった。いろいろありがとう。」

「気にするな。くれぐれも外には出るなよ?」

「わかった。」

「じゃ、俺は行くな。おやすみ。」

そう言ってライトは部屋からでていった。

そして慧は一人で寝るには広すぎるベットに横になった。

「はぁぁぁ、今日はいろいろあって疲れすぎた・・・。」

と言いながら夢の中に消えていった。