「俺は学校で居眠りしてて、夢の中でさっきみたいな真っ暗な場所にいて、

気づいたらさっきの人影たちが、いきなり殺し合いを始めて…。」
「それで?」

「俺は考えなしに夢中で止めたんだ。けど、俺の声なんて全然聞こえてないみたいで…。

でももう一度止めたんだ。そしたら今度はやめてくれて、

俺はやっとやめてくれたと思った瞬間、あの人影たち俺に質問攻めしてきて、

俺怖くて目を覚ましたんだ。」

「そこでその学校ってとこに戻っていたんだな。

そして慧はそれはただの夢だと思ったんだな?」

ライトがそういうと慧はうなずいた。

しかし、ライトの表情はいまだに険しい表情なままだった。

そしてしばらくしてライトが話し出した。

「慧に頼みがある。」

「なんですか?」

慧がそう言うと、少し間をおいて決心したように言った。

「慧、俺と一緒に来てくれないか。」




慧はライトの言ったことにしばらく答えられなっかった。

当然だ。いきなり変な人影に襲われ、変な格好をして自分を助けてくれた人が、

急に自分の住む世界に来てほしいと言われたら、誰だって戸惑う。

そして慧は、薄々わかっていながらも、ライトに聞いてみた。

「ライトと一緒にって…?」

「光界にだ。」

慧の予想は見事に的中してしまった。

けれど慧は気になっていたことをいくつか聞いてみた。

「あの、ライトさんのその格好って…。」

「光界の服だが。」

「ですよね…。あと、ライトさん…」

「慧、さっきっから言わなかったが、さん付けと敬語は使うな。」

「けれど…。」

「い・い・な?」

ライトの迫力に押されて慧は、うなずいてしまった。

「わ、わかった。」

慧がそう言うとライトはどこか嬉しそうに笑った。

そして、慧が言いかけたことを聞いた。

「で、さっき何を言おうとしたんだ?」

「あ、えっと、その肩に乗ってるの何?」

「肩に乗ってる?」

「えっ、あっ…なんでもない。」

そう言って慧はライトの住む世界に行くか行かないか考えていた。

同じくしてライトは慧の言ったことに頭をひねっていた。

(俺の肩に何か居るのか?)

そんなことを思っていると慧が再びライトに質問した。

「なぁ、なんで俺がライトの住む世界に行かなきゃならないんだ?」

その質問にライトは丁寧に回答をした。

「慧、普通ならブラックブラットの居る世界に行くことはできない。

特に人間界、つまり慧が住むこの世界の人たちは。

俺たち光界の者ですら行くことが難しいんだ。

なのに人間である慧が行けるってことは、慧はただの、

この世界の人間じゃないかもしれない。

だから慧、君を光界の老師様のところに連れて行って、

慧が何者なのかを確かめたいんだ。」


「…俺が人間じゃない?」

慧が戸惑った表情でそう言うと、慌ててライトが訂正した。

「もしかしたらだ慧。それにこれは俺の憶測に過ぎない。だから深く考え込むな。」

「けど…。」

「それを確かめるためにも、光界の世界に来てほしい。」

慧は決心したようにライトに言った。

「俺は自分が人間だってことを証明しに行くだけだからな。

人間だってわかったらすぐに戻って来るからな。」

「あぁ。けどもしも慧が人間じゃないってわかったら、

この世界に戻ってくるのは難しいかもしれない。」

ライトがそう言うと、慧は強く反論した。

「俺は人間だ!!」

そう言いながら慧はライトの謎の呪文によって出された扉の中に入っていった。
扉に入ってから慧は不安だった。

もし自分が人間じゃなっかたらどうなるのだろうか、

というのが重く慧の心にのしかかっていた。

しかし、慧の心には不安とは逆に安心感があった。

(俺、こんなに不安なのにどこか安心してる。

もしかして、ライトが一緒だからか?)

そんなことを思いながら、出口が見えてきた。

「慧、そろそろ着くぞ。」

ライトがそう言うと、ライトの肩に乗っているものが慧に向かって飛び移ってきた。

それに驚いて慧は後ろに倒れた。

「うわっ!!」

慧の声に振り向いたライトは慧のところに駆け寄って言った。

「どうした慧!?」

「あっ、なんか飛んできて…。」

「何かが飛んできた?」

「ミィ~」

何かが鳴いて、不思議そうな顔をしながら慧を見ると、

慧の頬に何かが擦り寄っていた。

それを見たライトは驚いたように言った。

「フィリー…。なんでここにいるんだ。」

「ミュー♪」

ライトの言葉に慧は謎の動物を抱き上げながら言った。

「こいつフィリーって言うのか?」

「あぁ。光界に存在している生き物で俺が飼っている。」

そうライトが言うと、慧は納得したようにうなずいた。

「なるほど。こいつよっぽっどライトが好きなんだな。

こいつずっと、ライトの肩に居たんだぜ。」

慧がそう言いながら生き物を撫でていた。

その言葉にライトは頭をひねっていた。

(俺の肩にずっと居た…?)

そう疑問に思いながら慧に聞いた。

「ずっとってどうゆうことだ。」

その言葉に慧は素っ気なく答えた。

「ん~。だから、ライトが俺を助けてくれた時からこいつ、

ライトの肩に乗ってたんだよ。」

そう慧が言うと、その生き物は『そうだよ』って言っているかのように

『ミィー』と鳴いた。
(慧は、俺でさえも見えなかったフィリーが見えてたってことか。

…もしかしたら本当に人間界に帰れなくなってしまうかもしれないな。)

そんなことを思いながらライトは歩き始めた。

それに気づいた慧もフィリーと一緒にライトを追いかけた。

扉を出るとそこは光がまぶしくて、目が開けられなかった。

それを見ていたライトは『建物の中に入れば大丈夫』と言い、

慧の手を引きながら歩いて行った。
 
そして慧とライトはある建物の中にいた。

「本当に中はまぶしくないんだな。それに俺が見たことないものばかりだ。」

そんなことを口にした慧は、ものすごくうずうずしていた。

見たことのない生き物に植物、人々の格好に空中に浮かんでいる本やろうそく。

慧にとっては見るものすべてが新鮮で、面白くて自然と笑顔になっていた。

そんな慧を見てライトはおかしそうに笑いながら言った。

「ははっ、気に入ってもらえたみたいだな。それに楽しそうだ。」

その言葉で慧は気づいた。

(俺何やってんだよ!あまりにも珍しいものばかりで、はしゃぎすぎてた!)

そう思いながら、ライトの言葉を否定した。

「べ、別に気に入ってない!楽しくもない!俺がここに来たのは、

自分が人間だってことを証明するために来たんだ!

だから、楽しいとか気に入ったってのは断じてない!!」

顔を真っ赤にしながら否定する慧を見て、

ライトは笑いながら『そうか。』って言った。

そんなやり取りをしながら、長い長い廊下を歩いていた。



二人は大きく頑丈そうな扉の前にいた。

(で、でかっ!)

慧がそう思っていると、ライトが慧に注意をしていた。

「慧、この先に老師様が居る。

くれぐれも反抗的な行動や、言動をするなよ。」

「わかった。」

「よし。入るぞ。」

そう言ったライトは扉を開けて中に入っていった。

慧はフィリーを抱えながら、ライトの後に続いて入っていった。

部屋の奥にはひげが長いおじいちゃんが居た。

「老師様。ただいま帰りました。」

(このおじいちゃんが老師様…。)

「あぁ。よく帰ったなライト。奴らは退治できたのか?」

「はい。なんとか。」

「そうか。ところで、隣にいる少年は?」

(そ、そこで俺!?)

「彼は穂高慧。奴らに襲われそうになっているところを助けなんです。」

「は、初めまして。穂高慧です。」

「うむ。わしは、この光界の長じゃ。」

「えっ?長…ですか?老師様じゃなくて?」

その言葉を聞いたおじいちゃんは、『ほほほっ。』と笑いながら

優しい顔で言った。

「老師と名を付けたのはライトじゃ。」

「えっ!?」

「その話はまたじっくり話そう。」

(そ、そこで保留!?)

そんなことを思っていた慧に、さっきの優しい顔とは別に険しい顔で話した。

「話は変わるが、なぜ奴らに襲われたんじゃ?」

(うっ、一番今キツイことを…。

でも、正直に話せば大丈夫だよな?)



そうして決心したかのように老師様の顔を見ながら話した。

「なんで俺が襲われたのか、俺自身が知りたいです。」

「どういうことじゃ?」

「そ、それは…、なんというか…。」

どう答えていいのか困ってしまった慧に、

ライトは優しく耳打ちをした。

〔俺に話したように話せばいい。

老師様は、どんな話でもきちんと聞いてくれる。〕

ライトの言葉に慧はうなずき、話し始めた。

「これから話すことは、俺がこの世界に来ることとなった経緯を話します。」

そう言うと、老師様は『うむ。』と言い慧を見ていた。

「俺は学校の授業中居眠りをしていて、夢を見ました。

その夢はどこを見渡しても真っ暗で、どんなに叫んでも、呼んでも、

なんの返事もありませんでした。だけど少しずつ目が慣れてきた時でした。

俺から少し離れたところに、人影が見えたんです。そうして気が付いたら、

その人影たちはどんどん俺の周りに集まってきて、人影同士で殺し合いを始めたんです。

俺はとっさに止めました。けれど俺の声は聞こえてなくて殺し合いを続けていました。

でも俺は殺し合いなんかやめてほしくて、もう一度止めたら人影たちは、

殺し合いをやめました。そうしたら急に人影たちは次々と俺に質問してきて…。

俺怖くて目が覚めたんです。」

「それでそのあとどうしたんじゃ?」

「そのあと学校が終わって、家に帰って自分の部屋でテレビを見ようと

電源を付けたんですけど、何も映らなくて…。そしたらまた人影が出てきて、

夢で見たのは本当のことだったんだってわかって、

その人影たちに殺されそうになったところをライトが助けてくれて、

今の俺が存在しているんです。そして気が付いたら俺とライトは、

俺の部屋にいて夢で見たことを話したら、ライトが急に自分が住んでいる

世界に来てくれって。理由を聞いたら、俺はもしかしたら人間じゃないかもしれない

なんて言われて、それで俺は人間だって証明するためにこの世界に来たんです。」

すべてを言い終わった慧はため息を吐き、老師様を見た。

しかし老師様は驚いたような顔をしていた。

(俺もしかして変なこと言った???)

そう思って慧はライトを見た。

けれどライトも老師様の反応を待っているかのような顔をしていて、

声をかけることができなかった。

そして老師様は慧に質問をした。

「慧が見た人影というのは、ブラックブラットのことか?」

「ライトが言っていたのはそんな名前でした。」

「まさか人間界に住む者が見えるとは…。」

「あ、あの何かあるんですか?」

「わしらは今まで人間界に住む者が、ブラックブラットを見たとの

話を一度も聞いたことがないんじゃ。」

「え?」

「だからわしでも慧が人間か人間ではないかとは判断できんのじゃ。」

「そう…ですか。」

「すまんの。なんの力にもなれんで。」

申し訳なさそうに老師様が言ったのに対して慧は明るく、

『話を聞いてくれただけでも俺は、

嬉しかったんで気にしないでください。』と言った。