「じ、じゃあ、なんで、桜木…っ消えて…?」
「それは、ね、私の正体が、バレたら、…魔女は正体がバレたら消えてしまうの…。」
⁉
桜木…。
「…俺の、ために…?」
「う、ん‥伊藤が‥‥、好きだから‥‥、助けたかったの‥。」
桜木っ‥‥‼
今更かもしれないけど、
「俺も‥‥、」
俺も、俺も‥‥。
「桜木が、好きだよ…。」
サアッと風が吹いた。
もう桜木は膝から上しかない状態だった。
「伊藤、‥ほん、と、う‥‥?」
苦しそうだ、そりゃ、消えているからな。
でも、驚きの表情もうかんでいる。
本当か、なんて…
「嘘じゃない。本当だよ、桜木…。」
桜木は安堵の表情をほんの少しうかべ、それから満面の笑みになった。
「両思い、だねぇ‥‥!」
ドキッとした。
俺はこいつのこういうところが可愛くって、
好きなんだよな‥‥‥。
こいつの、桜木の笑顔が
俺を幸せにする。
幸せにするのに、今は‥‥
桜木が消えてしまう‥‥
いなくなる…?
そんな、考えるだけでもツライこと。
それが今、本当に現実のことになりそうで、怖いんだ‥‥。
…桜木…。
ガッシャン‼
浮いていたバスケットゴールが音をたてて落ちる。
「私、の魔法…ね、空中浮遊、みたいな魔法、なんだけどね、…物を浮かすことも、頑張れば、出来るの…。
でもっ、もう…。」
「桜木、そこまでして俺を?」
桜木は笑顔で頷く。
…確かにこんなものが落ちてきたら、死ぬかも…。
桜木はもう上半身しかない。
サラサラサラ…
「桜木、桜木、桜木…。」
もう、それしか言えなかった。
悲しくて、ツラくて…
「伊藤、あの、ね…魔女は正体が、バレたら消えるの、体も、それから…」
「私を知る、みんなの記憶からも。」
…記憶から、も…⁈
「い、嫌だ、忘れたくない…」
「絢音の記憶からも、星の記憶からも、伊藤の記憶からも…」
「…忘れない、桜木のこと。」
そういうと、桜木は首につけていたネックレスをはずす。
そして、俺に渡す。
「受け取って、伊藤…早く‼」
最後強く言われて、受け取る。
ああ、もうじき腕まで消える…
「…お守り、わたしと、伊藤の。」
「お守り…」
「わたしは、わたしは、人間になりたい。…なるの、そのお守り。」
桜木.....!
「もし、人間になって、貴方だってすぐわかるように、目印…」
サラサラサラ…
もう、消えてなくなりそう…
「さよなら、伊藤…」
「…さよならじゃないよ。」
さよならなんかじゃないよ。
「…人間になるんだろ?
桜木……またな‼」
消える最後の最後だった。
でも
確かに桜木は
俺の大好きな笑顔で
笑っていたんだ…
また会えるよ。
桜木がくれたお守りがあるから。
絶対また会えるよ。
だから「またね。」なんだよ、桜木。
お守りが、目印が、あるじゃないか。
…俺は目印なんかなくても見つけるよ。
桜木のこと。
忘れない、忘れない、絶対…
-優太side end-
-魔法界-
「…校長。いかがいたしましょうか。」
アンブローズ学園、校長室。
アイのクラスの担任が珍しく真面目な表情で校長に話しかける。
アンブローズ学園校長は魔法の鏡で人間界に修行に行ったアイの一部始終を見ていたのだ。
部屋に落ちた時から、伊藤を助けた最後まで。
「…ふぅむ。命をかけて人間を助けたのか…。」
「…その結果消えてしまいましたが…。責任を取らなければならないのですよね。」
「…そうだ、そうだが…」
校長はゆっくりと顔をあげる。
「大切なものを、見つけたようだな…命をかけででも守りたいものを、見つけたようだ…」
「…そうですね。あのお転婆が…少し、成長したのでは?」
「そうだな。だが。修行に出した私らも悪いな。やり過ぎたとは思う。」
「…………。」
担任は黙った。
自分がブラックホールのような空間にアイを押し込んだことでも思い出しているのだろうか。
「あの生徒…アイ…は正体がバレて消えてしまった。人間界のあの生徒と関わった人々からの記憶からも消えてしまった。だが……」
校長はいつになく真面目な表情で担任にしゃべりかける。
「あの、伊藤と言う少年……命をかけて助けた少年….…」
と、その続きを言おうとしたその時
《校長、校長、クロですにゃ…》
どこからか声がした。
声のする方向を見てみると…
ブラックホールのような扉からブラックホールのように黒い猫があらわれた。
「あぁ、あの生徒の使い魔かね?」
と校長。
《ですにゃあ》
嬉しそうに言う。
「…いたのか…」
担任がひそかにつぶやいた。
《なんだにゃ⁈担任っ‼ぶ、無礼者だにゃあ、まっったくだにゃん‼》
怒りでしっぽがたぬきのようになっている。
「…なんでもありません。…プッ。」
下を向いて反省してるのか笑っているのか…。
それとも何にも考えていないのか…?
多分、笑っているであろう。
「で、何のようだね使い魔?」
校長がため息をつきながら聞く。