エミリーは私の妃だ。

これは周知の事実であり、もう誰にも奪うことなど出来ぬ。

だが、この心の底から湧きあがる言いようのない焦燥感は、体の内から追い出そうにもどうにも留まり心をかき乱す。

これでは結婚前と何も変わらぬな。


“あの方は大変ないい男でいらっしゃいますから”


フランクもよく煽ってくれる・・・。


―――いてもたってもいられぬ、という言葉には、もうこの先縁が無いと思っておったが―――



「アラン様、どちらに行かれるのですか?」


執務室を出た途端に、鋭い声が横から聞こえてきた。

横を見やると、ウォルターが書状を抱えて、足早に此方に歩いてくる。


――あれは、今朝届いた書状だな。



「ウォルター、少々外の空気を吸って参る。その書状は後で処理するゆえ、いつも通り箱に入れておくが良い」


「アラン様、そうは参りません。急ぎの書状を国王様よりお預かり致しております。“直ぐにご返答を”とのことで御座いますので、外の空気を吸いに行かれるだけの用事であれば、これだけは先に処理して頂きます」


「父君の急ぎの書状?・・・分かった、入るが良い」


ウォルターの有無を言わせぬ迫力と、妻に対する想いだけで仕事を中断して外に向かおうとしていた後ろめたさから、大人しく執務室の中に戻ったアラン。


机に向かう際に窓の外をチラッと見やった。


すると、漸く羽虫をやり過ごすことが出来たようで、パトリックが華奢な肩を優しく包み込み、当初の予定通り、あちらの庭の方に向かう様子が瞳に映った。

エミリーはホッとした様な笑顔を浮かべている。


こんなことで動揺するなど、全く、どうかしておる。

私も落ち着かねばな・・・。



瞳を閉じて深く息を吸い込んでふぅーっと吐いた。



「アラン様、此方の書状でございます―――アラン様、どうかなされたのですか?」


「いや、何でもない」



窓の外から目を離し椅子に座ると「どうぞ」と書状が差し出された。

早速目を通すアラン。

読み進めるうちに、形のよい眉が次第に寄せられていく。



「全く・・・レオの考えることはよく解らぬ」


ペンを持ち、そのまま書状に返事を書き込み、サインをしてウォルターに返した。



「これを父君に渡すが良い。それから、メイを呼んで参れ」