フランクが話しかけてくるが、窓の外から目を離すことが出来ない。

パトリックが何かを話しかけると、エミリーがにこにこと笑って答えている。

普通に並んで歩いていたが、急にピタッと止まり、エミリーの動きを制するように、パトリックが腕を前に差し出した。

余程驚いたのか、身体をビクッと震わせ、立ち止まってパトリックを見上げている。

パトリックが人差し指を顔の前にかざし、静かにするように合図を送っている。

エミリーの表情が少し強張っているように見える。


―――あの羽虫か?それとも、何か別の―――――っ!



その光景を見て、体が反射的に窓の方へ動いた。

椅子がガタンと大きな音を立てて弾み、フランクが驚いてアランを見上げた。


ブルーの瞳に映るのは、パトリックがエミリーを抱き締めている姿。

パトリックの腕が、その場に蹲ってしまった華奢な身体を引き寄せ、大切そうに抱き締めていた。

エミリーも拒むどころか、パトリックの胸に顔を埋めている。



「王子様?どうかされましたか?」


「・・いや、何でもない」



平静に聞こえるが、少し低いこの声は何でもないはずもない。

フランクは、ブルーの瞳が見つめる先を確認すると、眼鏡をぎらっと光らせた。

改めてアランを見ると、瞳が冷たい光を放って外を見据えている。

部屋の中の空気が少しピリピリとし始めた。これはいけない。



「王子様落ち着いて下さい。あれは、羽虫から守っているだけで御座いましょう。ほら、大きな蜂のようなものが、エミリーさんの周りを飛んでおります」


「良い。フランク、分かっておる」


――分かっておるが、こんなに心が騒ぐ。

すぐさまあの場に飛んでいき、パトリックの体を引き剥がしたくなる。



「しかし、心配で御座いますな?しっかり繋ぎとめておきませんと、あの方は大変ないい男でいらっしゃいますから」


そう言ったフランクの眼鏡の奥が、悪戯っぽく光っている。

心を落ち着かせるべきなのに、少しからかいたくなってしまった。



――あの氷の王子様がこのように変わられるとは。

以前は結婚や女性には何の興味も示さなかったのに。

年頃になられて、降るように来た縁談も全て断られて。

周りがうるさくなり始めた時、うんざりした王子様は

“妃など誰でも良い”と仰って、

最終的には、適当な女性を選んで妃を決めようとしておられた。

その王子様が―――


エミリーさんを見つめる王子様の姿は、何とも微笑ましい。

フランクはアランに気付かれないように、こっそりと笑った。


が、気付かれてしまったのか、軽く睨まれた。



「フランク、何を笑っておる。診療はもう終わったであろう―――もう戻るが良い」