「え・・・?そんなことありません・・・」

「もしや、昨夜のことで疲れておるのか?昨夜は2度も―――私の想いが溢れ過ぎたゆえ」

「え・・・?昨夜―――――ぁ・・・・ぇっと、違います。大丈夫です・・・」


エミリーは恥ずかしげに頬を染めて微笑んでいる。

愛らしい笑顔に不安だった気持ちが少し溶けていく。



―――疲れとか、身体の具合が悪いわけではなさそうだ。

笑顔はいつもと変わらずに可愛い。

私の思い過ごしであったか?


いや、しかし―――



「エミリー、では何故、瞳が濡れておる?もしや、泣いておったのではないのか?」


――下睫毛が濡れておる。何があったのか・・・このままにしておけぬ。


少し濡れていた下睫毛を指先でそっと拭い、今にも俯いてしまいそうな頬を、両手ですっぽりと包み込んで捕えた。


掌の中で見開かれるアメジストの瞳。

同時に、か細い指が袖をぎゅっと掴んできて下に引っ張った。

どうやら手を離して欲しいようだが。

エミリー、それは、出来ぬ。

何度も力弱く引っ張る愛らしい指を無視し、掌の中の表情に意識を集中させた。

無言のままずっと見つめていると、アメジストの瞳がゆらゆらと揺らめき、唇がキュッと結ばれた。


やはり、何かを我慢しておる。


静かな時が刻々と過ぎていく。聞こえてくるのはテラスに訪れた小鳥の綺麗な囀りのみ。



「エミリー?」


眉を寄せて、少し強めの声を出すと、アメジストの瞳があたふたと空を彷徨った後、私の手に掌がそっと重ねられた。


「泣いてなんていません。アラン様が傍にいて、こんなに幸せなのに・・・。なんでもありませんから、心配しないでください。これは、あの――目にゴミが入ってしまって」



今、幸せだと申したか?幸せだと。

――いやいや、そうではない。涙のワケはそうではあるまい。

きちんとしっかり聞かねば。


「目にゴミ――?」


嬉しい心を押し殺して、少し訝しげな表情を作って向けると、エミリーは慌てたようにぎこちない微笑みを作った。



やはり何か隠しておる。

君の瞳を曇らせるようなことはせぬから、これからは何でも申せと、さんざん申したのに。

全く、困ったものだ・・・一体何があったのか。



「あの、アラン様?わたし、お腹がすいちゃったわ。早く食堂に行きましょう。それに・・・アラン様は、今日も、お忙しいのでしょう・・・?遅れてしまったら大変だわ。ね?」



――確かに遅れては困るが・・・今は君の方が優先だ。


私は再度、真剣な瞳で掌の中を見つめた。



「エミリー?何があった」