綺麗なブロンドの髪が、武骨な指の間をサラサラと零れていく。

以前からも柔らかくて艶めいて美しい髪だったが、シェラザードの力が宿ってからはそれに拍車がかかり、ますます美しくなった。


――この綺麗な髪は誰にも触れさせぬ・・・。


触れる度に石鹸の香りが鼻をくすぐる。

布団の中には、昨夜のままの一糸まとわぬ柔らかな身体がある。

気を落ち着かせるどころか、むくむくと湧きあがってくるよからぬ想い。

抑えようと思っても手が勝手に動いてしまう。

髪を触っていた武骨な指が、柔らかな耳にそっと触れ、そのまま長い指がうなじから背中をつーっと撫でた。

すると、腕の中の身体が再びピクッと身動ぎをした。


「ぅ・・・ん・・・」


―――っ・・しまった・・つい―――

・・・いや、いっそのこと、このまま唇を塞いで起こしてしまおうか。

この唇から洩れる、あの心地良い甘い声を聞きたい。


だが、昨夜もこの柔らかな肌をたっぷり堪能したところだ。

それなのに、今朝再び―――ではエミリーの身体が悲鳴をあげてしまう。



“王子様の体力にはついていけません。手加減を――――”


眼鏡をギラリと光らせるフランクの顔と、言われた言葉が鮮明に思い浮かぶ。


―――分かっておる・・・分かっておるが・・・。


布団の上で大きな手が行ったり来たり。

アランは、むくむくと湧きあがってくるよからぬ想いを懸命に抑えた。



我が妻となっても自らを抑えねばならぬとは・・・。

コレはコレで、けっこう辛いものだな。



アランは服を掴むか細い指をそっと解いて指先に唇を乗せた。

起こさないように注意しながら、頬が預けられた腕をゆっくりと引き抜き、指が伸びてくる前に、サッとベッドから滑り降りた。

昨夜脱がせたナイトドレスを枕元に置き、乱れた布団を丁寧にかけなおした。


「エミリー、もう少し眠っておるが良い」


耳元に囁きを残し、乱れた髪を整え、唇を額に乗せて愛しげに見つめた後、ベッド脇の白い扉から、静かに自室へと戻った。






「ぅ・・・ん・・・アラン様・・・」


アランがベッドを抜けていった数刻後、アメジストの瞳がぼんやりと辺りを彷徨った。

まだ醒めきっていない瞳を瞬かせ、か細い指が布団の中にあるべきあたたかな体を探していた。


――ん・・・アラン様・・・どこ―――?


小さな掌が布団の中を探る様に幾度も彷徨うが、求めるものには全く行き当たらない。


・・・アラン様・・・もう、起きてしまったの?


ぼんやりとした瞳が、目の前の空っぽな空間を寂しげに見つめた。