東の山の稜線が光りに染まり、朝日がゆっくりと昇っていく。

ギディオンの国を日の光が徐々に照らしだし、一日の始まりを告げる明け鳥の声が城下に響き渡っている。

アランの塔を朝焼け色に染め、城のキッチンから朝食の準備の音がし始める頃。

凛々しい眉がぴくんと動き、深いブルーの瞳が3度の瞬きの後スーッと開いた。


―――もう朝か・・・今日の天候はよさそうだな。


分厚いカーテンのかかる部屋の中で、アランは薄暗い朝を迎えていた。


毎晩目覚ましをセットして眠りにつくが、最近は耳に届く小さな小鳥の囀りで起きてしまう。

エミリーを起こしてはいけないと思うあまり、いつも鳴る前に目覚めてしまう。

それならば、セットしなければいいのだが、王子足るもの、寝過して遅刻しては皆に示しがつかない。それに、寝ずに番をする夜勤の兵士にも申し訳ない。

それゆえ、どうにもセットせずにはいられない。


腕の中の愛しい身体を動かさないように、起こさないように、気を使いながら枕元の時計に手を伸ばした。



「・・・・ん・・・いか・・ないで・・・・」



ほんの僅かな身動ぎで腕の中から、小さな呟きとともにか細い指がキュッと服を掴んできた。

おまけに頬が胸のあたりに埋められ、柔らかな身体がピトっとくっついてきた。



――――っ・・・参ったな・・・。

今朝は剣の鍛錬をしようと思っていたのだが、これでは動けぬ・・・。



毎度思うことだが、こんなに力弱くか細い指なのに、どうして振り払うことが出来ぬのか。

少し力を加えれば簡単に解けるのに。



何度もベッドから降りようと思うのに、この指は私をこの場にとどめ置いて離さない。


結婚すれば少しは気持ちが落ち着き、この指も簡単に解くことができると思っていたが、甘かった。

却って想いは強くなり、指の威力も増してしまった。


この指には苦労させられたが、これから先もこの苦労は絶えぬな・・・。



――エミリー・・・愛しておる。



安らかな寝息を立てて眠る姿を見ているだけで、愛しい想いがとめどなく溢れてくる。


柔らかなブロンドの髪をそっとかき分けると、美しい額が覗く。

堪らずに想いを込めて額に甘いキスをした。

チュッと音を立てて離れる唇で、腕の中の身体が少し身動ぎをした。




「ん・・・」



―――しまったな・・・起こしたか?


このまま唇を塞いで起こしてしまいたい衝動と、もう少し可愛い寝顔を見ていたい気持ちとで、アランの心の中は激しく揺れ始めた。



気を落ち着かせるように、柔らかなブロンドの髪をそっと梳き始めた。