薄暗いシフォンのカーテンの中で、アランの眉がピクンと動き、スーッと寄せられていく。

結婚以来ずっと穏やかな朝を迎えていたのに、瞳を閉じたまま険しい表情をするアラン。

ピリッとした緊張感が辺りを包んでいく。




―――微かに聞こえる衣擦れの音・・・。

息を潜めて何者かが部屋の中を歩く気配・・・。

こんなに早く・・何者だ―――?

メイドが来るはずはない。


息を潜め、こちらの様子を探るように近付いておる・・・。

シフォンのカーテンが揺れ、こっそりと覗く気配。


―――誰だ―――


目的はエミリーか?

彼女は預言の者ゆえ、ひそかに狙う者は多い。

唯一油断するのはこの時と、狙って参ったか。

剣は向こうに置いたままで、生憎武器はない。



意識を集中させて気配を探る。



一人か・・いや、二人おるか・・・。

足音を忍ばせ、部屋の中をうろうろしておる。


今のところ殺気は感じられぬが、用心に越したことはない。




アランは腕の中にあるはずの、守るべき柔らかな身体の行方を静かに探った。


――・・・ッ―――!


一瞬に気が昂り、ビリっと空気が震える。

庇うべきか弱い身体が何処にも、無い。



もう一度気配を探ると、シフォンの外からエミリーの気が漂ってくる。

どうやら部屋の中にはおるようだ。

ホッと安堵の息がもれる。


だが、日頃は元より昨夜の件も加え、彼女が私より先に起きられる筈がない。

これは、起こされたと考えるべきだ。


加えて、この怪しい気配。


ひっそりと気を高ぶらせ、それでいて急くような、妙な気配。




私の弱点はただひとつ。エミリーだ。

彼女の命と我が命と交換すると条件を出されれば、私は喜んでこの身を差し出す。


賊はそれを利用するつもりか。

ということは、目的は王子であるこの私。


口を塞がれ、なす術もなく涙を溢す姿が思い浮かぶ。

しかも、この腕の中から奪ったのであれば、一糸纏わぬ姿だったはずだ。


―――許さぬ―――


抑えていた殺気が、じりじりと広がっていく。

空気が震え、ぴりぴりと肌を刺す。

早朝とはいえ、3階の警備を掻い潜りこの部屋に参るとは、かなりの強者。

体術で、いけるか?

――エミリー、暫し待っておれ。直ぐに助けるゆえ――


だが、どうする・・・。


下手に動くと敵はエミリーを傷付けるやもしれぬ。


慎重にせねば・・・一人、気配が消えた・・・か?



―――っ


誰かが・・・来る。


カーテンの揺れる気配―――



「っ―――何者だ!目的を申せ!」



それは、時間にしてものの1~2秒のこと。


伸びてきた腕を素早く掴みベッドに引き込みながら、低い声で素早く囁いた。




「彼女を傷つけたら誰であれ許さぬ。覚悟を持って侵入したのであろうな!?」


「ぇ―――っ?」



「―――っ!!?くっ―――・・・」