ふと、日刊紙に気になる記事を見つけたことを思い出した。

大したことでは無いが、これはアランに言っておくべきだろうな・・・。


「まだ、間があるか」


ひとりごちて暖炉の火を点し、昨夜にやり残した仕事に手をつけていれば、少しの時などすぐに過ぎる。


「もうそろそろ、時間だな―――」


時計を見やり上着を羽織って玄関まで下りていく。

扉を開ければ、時折冷たい風が吹くものの、昇り切った朝日がほんのりと肌を温め、柔らかな光は紅葉した木の葉を照らして色鮮やかに見せていた。

見上げれば澄んだ青い空に薄い雲が緩やかに流れていく。


―――今日は暖かくなりそうだ―――


そんな穏やかな空気の中、異質な、肌を刺すような気を感じてそちらの方に目を向けると、馬車や馬が準備された広場の方に、公務服に身を包んだやたらと威厳を放つ男がいるのが見えた。

背中に垂れる銀糸の束が朝日に当り艶々と光る。

どこにいても目立ち近寄りがたい男、彼はこの国の王子アランだ。

兵士団長のジェフと何やら話をしているが、体から放たれるオーラが普段よりも昂ってるように感じられる。

今日の行程のせいか―――


「―――アラン」


歩み寄りながら呼びかければ、気の入ったブルーの瞳がこちらを振りかえり見たので軽く手を上げて挨拶をする。

鋭い刃を宿したような瞳は、私までもが気押されてしまうほどに迫力がある。

今日は、ジェフも相当な気合を入れてることだろう。



「パトリック・・・本日の行程。本来であれば、君にも同行願いたいところだったが―――」


やはり、な・・・。

今日はサディル国との国境近くまで視察に行くという。

異変を見抜く目は、少しでも多い方がいいだろう。

だが―――


「あぁ、私まで、城を離れるわけにはいかない。そうだろう?」

「そうだ。しっかりと、留守を頼む。本日エミリーが――――っ・・・」



話の途中、突然に言葉を切って唇を結んだ彼の鋭い瞳が急激に柔らかなものに変化していく。

これは、恐らく―――


彼が目を向ける方向、私の背後に意識を集中させると、ほんわりとあたたかな気が徐々に近付いてくるのが感じられた。

振り向けば、政務塔の重い玄関扉がゆっくりとぎこちなく開かれるのが目に入る。



小花模様のドレスにレンガ色のショール。

櫛を通したままの艶やかな髪が風になびきふわふわと揺れる。


―――彼女、だ――――



「アラン様―――待ってください」