ぽやぽやとした受け答えぶりは、立ったまま眠りそうな様子だ。
この分だと、2度寝はかなりの時が伸びるだろうな―――
「―――今日のことは、約束通りに手配してある。迎えの馬車が来たら乗るんだよ。執事にもしっかり命じてある、いいね?」
「・・・はい―――いってらっしゃい、お兄様」
「行ってらっしゃいませ、パトリック様」
ひらひらと手を振るシンディと、早い時刻から起き出し見送る使用人たちに軽く手を挙げ挨拶を返し、馬車に乗り込むと東の山の稜線に光の線が描かれ始めるのが見えた。
ギディオン王国の一日の始まりだ。
明け鳥の声も出され始めるが辺りはまだ薄暗く、日刊紙を配達する者以外に道を歩く人の姿もほとんどない。
その中を、出来るだけ静かにゆるゆると馬車を進めていくと、やがて長い城壁が見え始めた。
「おはようございます。パトリック・ラムスター様ですね、どうぞお通り下さい」
城の門番に馭者が身分証を提示すればいつも通りに重厚な門扉がゆっくりと開かれる。
ゆるゆると進み始めるのを途中で止めさせ、窓を開けて門番に話しかけた。
今日は言付けることがある。
「おはよう。夜勤からご苦労様」
「兵士長官ラムスター様、おはようございます。早朝からのお勤めお疲れ様です。・・・何か、御座いましたか?」
「あぁ、大したことじゃないんだが、朝勤に言付けを頼むよ。聞いてるかもしれないが、今日は妹のシンディが城に来るんだ。身分証を持ってないが、私の馬車で来る。『決して止めないように』と」
忘れないように、と少しの威厳を含めた瞳で門番を見れば、しゃっきりと姿勢を正して礼を取る。
「はい!承知致しました!」
城の敷地の中を進んでいくと、だんだんに早出勤の使用人達の姿がちらほらと見え始め、警備兵たちの交替の声が交わされ始める。
政務塔の玄関前に到着すると、馬車止まりの方では紋章付きの大きな馬車の出発前点検が行われていた。
今日1日は定期視察のため、夕暮れまでアラン王子は不在となる。
私のこの早出勤も、彼の留守を預かるためにするものだ。
ざかざかと足音が聞こえたのでそちらに目を向ければ、ぴしりと整列したジェフの団員達から声が掛けられた。
「おはようございます!パトリック様」
「―――おはよう。今日もしっかりと職務を遂行してくれ」
「はい。承知致しました!」
彼らはアランと同行する兵士たち。その元気な声で自らの気もぴりりと引き締め、政務塔の玄関扉を潜る。
彼のいない日は城の空気が緩みがちになり、必ず何かが起こるのが困りものだ。
しっかりと気を付けねばならない。
更に、今日はシンディも来る―――別の日にしてもらえば良かったとも思うが、それは今更なことだ。
政務塔の廊下を進んでいると、同じく早出勤のウォルターと行き会ったので軽く手を挙げた。
「おはようございます。パトリック様」
「おはよう、ウォルター」
互いに挨拶を交わし長官室の鍵を開け、上着を脱げば冷たい空気に触れて更に気が引き締まる。
さぁ、アランのいないギディオン城の1日の幕開けだ――――
この分だと、2度寝はかなりの時が伸びるだろうな―――
「―――今日のことは、約束通りに手配してある。迎えの馬車が来たら乗るんだよ。執事にもしっかり命じてある、いいね?」
「・・・はい―――いってらっしゃい、お兄様」
「行ってらっしゃいませ、パトリック様」
ひらひらと手を振るシンディと、早い時刻から起き出し見送る使用人たちに軽く手を挙げ挨拶を返し、馬車に乗り込むと東の山の稜線に光の線が描かれ始めるのが見えた。
ギディオン王国の一日の始まりだ。
明け鳥の声も出され始めるが辺りはまだ薄暗く、日刊紙を配達する者以外に道を歩く人の姿もほとんどない。
その中を、出来るだけ静かにゆるゆると馬車を進めていくと、やがて長い城壁が見え始めた。
「おはようございます。パトリック・ラムスター様ですね、どうぞお通り下さい」
城の門番に馭者が身分証を提示すればいつも通りに重厚な門扉がゆっくりと開かれる。
ゆるゆると進み始めるのを途中で止めさせ、窓を開けて門番に話しかけた。
今日は言付けることがある。
「おはよう。夜勤からご苦労様」
「兵士長官ラムスター様、おはようございます。早朝からのお勤めお疲れ様です。・・・何か、御座いましたか?」
「あぁ、大したことじゃないんだが、朝勤に言付けを頼むよ。聞いてるかもしれないが、今日は妹のシンディが城に来るんだ。身分証を持ってないが、私の馬車で来る。『決して止めないように』と」
忘れないように、と少しの威厳を含めた瞳で門番を見れば、しゃっきりと姿勢を正して礼を取る。
「はい!承知致しました!」
城の敷地の中を進んでいくと、だんだんに早出勤の使用人達の姿がちらほらと見え始め、警備兵たちの交替の声が交わされ始める。
政務塔の玄関前に到着すると、馬車止まりの方では紋章付きの大きな馬車の出発前点検が行われていた。
今日1日は定期視察のため、夕暮れまでアラン王子は不在となる。
私のこの早出勤も、彼の留守を預かるためにするものだ。
ざかざかと足音が聞こえたのでそちらに目を向ければ、ぴしりと整列したジェフの団員達から声が掛けられた。
「おはようございます!パトリック様」
「―――おはよう。今日もしっかりと職務を遂行してくれ」
「はい。承知致しました!」
彼らはアランと同行する兵士たち。その元気な声で自らの気もぴりりと引き締め、政務塔の玄関扉を潜る。
彼のいない日は城の空気が緩みがちになり、必ず何かが起こるのが困りものだ。
しっかりと気を付けねばならない。
更に、今日はシンディも来る―――別の日にしてもらえば良かったとも思うが、それは今更なことだ。
政務塔の廊下を進んでいると、同じく早出勤のウォルターと行き会ったので軽く手を挙げた。
「おはようございます。パトリック様」
「おはよう、ウォルター」
互いに挨拶を交わし長官室の鍵を開け、上着を脱げば冷たい空気に触れて更に気が引き締まる。
さぁ、アランのいないギディオン城の1日の幕開けだ――――