執務室から戻り、いつものようにシャワーを浴びた後、ナイトウェアに着替え、銀の鍵で正室の扉を開けた――――

そっと静かに入って行くと、いつもの通り壁の灯りが一つだけ灯されている。


“お疲れ様です。アラン様、お帰りなさい”


いつも扉を開けると聞こえてくる声。


さすがに今夜は聞こえぬな・・・。あたりまえか、0時を過ぎた。

もうすでに寝ておるはずだ。




シフォンのカーテンをそっと避けて覗き見たアランの瞳が、戸惑うように空を彷徨った。

そこで眠っているはずのエミリーの姿がない。



―――・・・・?

こんな時刻に、まだ起きておるのか?

いや、まさかとは思うが―――塔を抜け出してはおるまいな。



姿が見えぬと思うと、いつも予想外の場所に居るエミリー。

いままでの経験から、アランの脳裏に嫌な予感がフッとよぎる。


急いで部屋の中を見廻すと、ソファの上に横たわっている姿が目に映った。

ほっと安堵の息を漏らしながら近づいていくと、カーテンも締めずに、手には読みかけの本を持ったまま、ひじ掛けに身体を預け、規則的な寝息を立てていた。

柔らかな月明かりが差し込み、壁の灯りと相まって滑らかな肌を照らし、一層白く美しく見える。


―――こんなところで、このように眠っておるとは・・・。

もしや、私を待っててくれたのか?

今宵は我慢しようと思っておったが―――


カーテンを閉めて灯りを小さくした後、ソファに横たわる身体の上に覆いかぶさり、耳元で囁きながら頬にそっと掌を当てた。


「エミリー、こんなところで寝ると風邪をひく」


起こすのは忍びないが、できれば起きて欲しい。

そう願いながら頬をそっと撫でるアラン。


暫くするとアメジストの瞳がゆっくりと開かれた。


「ぁ・・・アラン様、お帰りなさい・・・わたし、こんなところで寝てしまって――――んん・・っん・・・」


エミリーが少し身体を起こし、目が合った瞬間に後ろ髪に手を差し入れ、グイッと引き寄せて唇を甘く塞いだ。

手に持っていた本がバサッと床に落ち、か細い腕が背中にまわり、服をキュッと掴んだ。



愛らしいふっくらとした唇。

その中に柔らかく入りこみ、絡め取る様にゆっくりと甘く攻めていく。

すると甘い吐息が唇から漏れ始め、身体の力がすーっと抜けていった。

服を掴んでいる指も力なくずるずると下がっていく。

唇を離すと、潤んだぼんやりとした瞳が私を見上げていた。