冷たく澄んだ空気がギディオンの国を覆い、まだ夜の帳が開けきれず明け鳥も押し黙る時刻。
眠る街の中で唯一灯りが点ったラムスター家の屋敷のキッチンからは、カチャカチャと朝食の準備をする音が聞こえていた。
もうじきに、主のパトリックが起き出す頃だ――――
・・チリ・・チリン・・チリリ・・リン・・
重厚なカーテンの閉まった暗く静かな広い部屋の中で、目覚ましのベルの音が小さく鳴る。
部屋の中心よりも窓寄りに置かれた立派なベッドの中から掠れた短い声が出され、上等なふかふかの毛布がもこもこと動いた。
「―――ん、もう朝か・・」
程好く筋肉がつき均整のとれた腕がベッドサイドのテーブルに伸び、節立った長い指先が時計を探して空を舞う。
小さな突起を手探りで探し出して音を止め、ベッドサイドの灯りを点して起き出し、少し癖のついた銀髪を手櫛で整えガウンを羽織った。
今日も、仕事だ。天候はどうだろうか。
サッと音を立ててカーテンを開けると、窓の外に使用人の点すランプの灯が門に向かって動いて行くのが見えた。
窓を開けて深呼吸をすれば、冷たい空気に肺が満たされ一息に頭がスッキリとする。
見上げれば紫がかった空に無数の星が煌くのが見える。
―――この時刻に暗いとは、な・・少し前は、既に日が昇っていたものだ。
だが、この空―――――どうやら今日も、天気が良いようだ―――
普段よりも早い目覚め。
今日はひと月に一度訪れる早出の日だ。
習慣の目覚めのシャワーを浴びて食堂に向かうと、テーブルの上には先程使用人が取り込んでくれた日刊紙が置かれていた。
朝食が並べられるまでの僅かな時間に、さっと軽く一読する。
民間が作る日刊紙には、城の中では知り得ない情報がよく掲載されているものだ。
忙しい日々の中、朝食時は大事な情報収集の時間でもある。
「おはようございます、パトリック様」
爽やかな笑顔で2人の給仕が食堂に入ってくる。
「おはよう、朝早くにご苦労様」
具だくさんの熱々スープにサラダにホカホカと湯気の出る焼きたてのパン。
給仕が出す朝食を残さず平らげ珈琲をゆるりと飲み干し、身支度を整えて玄関に向かう。
と、そこには、ぶかぶかのガウンを引き摺るように羽織ったシンディが待っていた。
髪も起きたままに乱れ、少し寝ぼけた様子で目を擦り「お兄様・・・おはようございます」と言う声も日頃の元気なものと違い、少し掠れている。
朝が苦手なのに、早く起きてここで待っていたのか・・・そう考えると堪らなく愛しく思う。
「シンディ、おはよう。寒いだろう?見送りは無理しなくていいんだよ」
白い頬にそっと触れれば少し冷たく感じる。冷えたのだろうか。
シンディは相当に眠いのだろう、欠伸を噛み殺しながらも精一杯の微笑みを作ってくれる。
「無理なんてしてないわ・・・大好きなお兄様の御出勤だもの、見送りたいと思うのが妹なのよ?・・・それに、これからもう一度眠るもの・・・気にしなくていいわ」
眠る街の中で唯一灯りが点ったラムスター家の屋敷のキッチンからは、カチャカチャと朝食の準備をする音が聞こえていた。
もうじきに、主のパトリックが起き出す頃だ――――
・・チリ・・チリン・・チリリ・・リン・・
重厚なカーテンの閉まった暗く静かな広い部屋の中で、目覚ましのベルの音が小さく鳴る。
部屋の中心よりも窓寄りに置かれた立派なベッドの中から掠れた短い声が出され、上等なふかふかの毛布がもこもこと動いた。
「―――ん、もう朝か・・」
程好く筋肉がつき均整のとれた腕がベッドサイドのテーブルに伸び、節立った長い指先が時計を探して空を舞う。
小さな突起を手探りで探し出して音を止め、ベッドサイドの灯りを点して起き出し、少し癖のついた銀髪を手櫛で整えガウンを羽織った。
今日も、仕事だ。天候はどうだろうか。
サッと音を立ててカーテンを開けると、窓の外に使用人の点すランプの灯が門に向かって動いて行くのが見えた。
窓を開けて深呼吸をすれば、冷たい空気に肺が満たされ一息に頭がスッキリとする。
見上げれば紫がかった空に無数の星が煌くのが見える。
―――この時刻に暗いとは、な・・少し前は、既に日が昇っていたものだ。
だが、この空―――――どうやら今日も、天気が良いようだ―――
普段よりも早い目覚め。
今日はひと月に一度訪れる早出の日だ。
習慣の目覚めのシャワーを浴びて食堂に向かうと、テーブルの上には先程使用人が取り込んでくれた日刊紙が置かれていた。
朝食が並べられるまでの僅かな時間に、さっと軽く一読する。
民間が作る日刊紙には、城の中では知り得ない情報がよく掲載されているものだ。
忙しい日々の中、朝食時は大事な情報収集の時間でもある。
「おはようございます、パトリック様」
爽やかな笑顔で2人の給仕が食堂に入ってくる。
「おはよう、朝早くにご苦労様」
具だくさんの熱々スープにサラダにホカホカと湯気の出る焼きたてのパン。
給仕が出す朝食を残さず平らげ珈琲をゆるりと飲み干し、身支度を整えて玄関に向かう。
と、そこには、ぶかぶかのガウンを引き摺るように羽織ったシンディが待っていた。
髪も起きたままに乱れ、少し寝ぼけた様子で目を擦り「お兄様・・・おはようございます」と言う声も日頃の元気なものと違い、少し掠れている。
朝が苦手なのに、早く起きてここで待っていたのか・・・そう考えると堪らなく愛しく思う。
「シンディ、おはよう。寒いだろう?見送りは無理しなくていいんだよ」
白い頬にそっと触れれば少し冷たく感じる。冷えたのだろうか。
シンディは相当に眠いのだろう、欠伸を噛み殺しながらも精一杯の微笑みを作ってくれる。
「無理なんてしてないわ・・・大好きなお兄様の御出勤だもの、見送りたいと思うのが妹なのよ?・・・それに、これからもう一度眠るもの・・・気にしなくていいわ」