テーブルの向こうからこちらを見る表情は、妙に自信ありげに見える。

私の誕生日に関する“いいこと”か・・・期待していいのか悪いのか、迷うところだな。

知らなかったこととはいえ、シンディは以前に彼女を危険な目にあわせた苦い経験がある。

人に迷惑をかけないことだといいんだが―――


「いいこと、とは何だい?」


一抹の不安を感じつつ「教えてくれるかい?」とやんわりと問いかければ、満面の笑顔から一転した真顔に変え、す・・と姿勢を正した。

王族特有の深いブルーの瞳が私をじっと見つめ、可愛い唇はきゅっと引き結ばれた。

この改まった雰囲気は、私の不安な心情を感じ取ったのか、それともそれ程に言い難いことなのか。



「シンディ?」


「私、ずっと考えていたことがあるの―――・・・。ね、お兄様?私、お兄様が大好きなの。だから、誰よりも幸せになって欲しいわ」



アラン様よりも、よ?と付け加えるシンディは、私の反応を窺うように真っ直ぐに見つめてくる。


“アランよりも、幸せに”か。


何を言うのかと思えば―――・・・考えていることが漠然と伝わってくる。

誕生日を迎えれば私も29歳だ。

この年頃になれば、周りからも口うるさいほどに言われることが一つある。

多分、それに関することと同じだろう。


氷の王子と呼ばれる、あのアランが愛を手に入れたことも影響しているのだが・・・。

仏頂面の威厳ある瞳が彼女にだけは甘く優しくなるところが思い出され、苦笑する。


まさか、彼に先を越されるとは思ってなかった。


しかも――――・・・。


ふんわりとした髪と可憐な笑顔が脳裏を掠める。


私も、前に進まねばいけないとは思ってはいるが、こればかりは――――



「私ね、心配なの。お兄様は、エミリーさんに知り合ってから今まで、誰ともお付き合いしてないでしょ?だから、寂しいんじゃないかと思って――――」

「―――シンディ・・有難う。だが私は、今のままでも充分幸せだよ。こうして、可愛い妹が時折訪れてくれるし、心配もしてくれる。だから私は決して寂しくないんだ。それに今は仕事が忙しい。毎日は、充実しているよ」


シンディの唇が、でも・・と反論の言葉を紡ぎかけるのを見てとり、掌を出して遮る。



「―――で、“いいこと”とは何だったかな?」


大体、想像はついているが・・・。


「ぇ―――っと。だからね、招待するご令嬢方の幅を広げたらいいと思うの。今までは、重鎮や近しい貴族方だけだったでしょう。お兄様はお見合いもしないし、普段はお仕事ばかりで城と屋敷との往復だけでしょう?これじゃぁ出会いがまったく無いもの」


ダメダメよ・・とため息交じりに言って、シンディは両手を上に向けて肩をすくめた。