月祭り以来、久しぶりにとるシンディとの食事は進み、空の皿が下げられていく。

話は弾み、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

やはり、独りじゃないというのはいいものだな・・・。

同じ食事でも、随分と美味しく感じられる。



「本日のデザートは、外部の素材を使用致しました」



給仕が説明しながら皿を置いていくと、シンディの瞳が輝きを増した。



「まぁ、とても綺麗だわ!ね、これ、何処のお店のものなの?」


皿の上を見つめて嬉しげな声を出し、給仕に訊ねている。

白いシンプルな皿には、オレンジと白色のマーブル模様のケーキに生クリームと果物が彩りよく飾られている。

職人技もあるが、確かに、素朴な色合いがとても美しいものだ。

豪華なデザートを見慣れたシンディにとってこの素朴さは、さぞ珍しいことだろうな・・・。


これは、少々変わったこのケーキは“シンディ様が来られるのなら是非に”と、侍女が朝早くから市場通りに出掛けて行き買い求めて来たものだ。

こんなに早く行くのか?

そう尋ねれば、まごまごしていたら売り切れてしまいます!と侍女は言った。余程人気があるのだろう。



“アンタも意思がカタイねぇ”


歩く道すがら、彼女はそう言った。

送られることをしきりに嫌がったのを、半ば無理やりに店まで送り届けた時に貰ったもの。

あのケーキとこれは、同種のものらしい。



事件が起きたあの日。

あの時、市場通りの外れでアランたちと別れて『空のアトリエ』まで送り届けた時のことだ。



あまりにも送られることを嫌がり挙動不審なのは、もしや嫉妬深い彼氏がいるからか。

それならば、不味いな。


ふとそう思い、肩を抱く手を急いで退けると案の定飛び退くように離れていった。

やはり、か―――


「あぁ・・彼氏に見られたら不味かったかな?慣れ慣れしくしてすまないね。だが、君を守るためだ、許してくれ。もしも知られて怒られたならば、いつでも言ってくれ。対処しよう」

「――――へ?・・彼氏??」


呟くようにそう言って、彼女は大きく瞳を開いてこちらを凝視した後に頬を赤く染めた。

図星だったか、しまったな。

そう思ったが、彼女は両手を身体の前でぶんぶんと振りしどろもどろにも否定の言葉を口にした。



「ぁ・・・ゃ、やだねぇ。彼氏なんていないよ。もう・・・こんな仕事一筋じゃ出会いもないし、ついでに言えば嫁の貰い手なんてのも全然ないよ!このまま独身を貫く勢いさ」



そう言った後、気を落ち着かせるためか彼女は胸に手を当てて、ふぅ・・と軽く息を吐き、小さな店内を見廻してにっこりと微笑んだ。

つられて同じ方に目を向けると、空の雰囲気たっぷりの店内には窓から月明かりが差し込んでいた。