「分かった。出来の話は明日にしよう―――さて、甘えん坊さん。今日は特別なデザートが用意してあるんだ。楽しみにしてるといい」


デザート?特別なの?

嬉しげな声を出し、大きな瞳が更に開かれていきキラキラと輝く。

年相応の、可愛い笑顔だ。


「いつもと違うのね?それは素敵だわ。早く食べましょ」

「あぁ、その前に。すまないが、少しだけ時間をくれないかい?」


上階を指し示して、着替えたいんだと伝えると「分かったわ。早くね?」と品良く座りなおしてくれた。


どの道、食事の支度には少々の時間が要る。

支度が出来ていないのに私が座れば、給仕たちを慌てさせてしまう。

自室に行き届けられている封書の表書きを手早くチェックし、以前シンディが選んでくれたシャツを取り出して着替える。



年の離れた妹。

私とシンディは異母兄妹だ。

私の実母は幼い頃に亡くしており、実は顔もあまり覚えていない。

執事に言わせれば私に性格が似ているそうで、大層美しいお方だったという。

暫くは男手ひとつの家庭だったが、ある日突然に赤子と共にやって来たのが今の継母ディアナだ。



「この子の名前はシンディと言いますの。貴方様の妹君ですわ。かわいいでしょう・・・抱いてみますか?」

「・・・はい・・あの―――母上」


突然出来た母と妹に戸惑いを隠せないながらも見れば、綿毛のようなお包みの中に艶めく銀髪と白い肌があった。

まぎれもなく王族の子供。

赤子を見るのはアラン以来のことだ。



・・・赤ちゃんって、こんなに、小さいものだったかな・・・。


久しぶりに抱く赤子にドキドキしながら、おずおずと腕を差し出した。


そこにそっと収められたシンディは、それまでに抱き慣れていたアランとは明らかに違い、羽のように軽くてとても柔らかく、強く抱きしめると壊れてしまいそうだった。



―――これが、女の子なんだ―――


と。

その時初めて、幼いなりに女性のか弱さを知って、思ったのだ。



“女の子には優しくしなければ。男が守るものなのだ”



成長し女性を抱く機会が増えても幼い頃に覚えたあの感覚は消えることなく、柔らかな肌に触れるたびに気持は増す。

どの身分の者にも優しく。

そう心がけていた結果、いつの間にか、亡き母に似たこの容姿と相俟って女性の人気を得てしまっていた。

数多くの女性から愛の言葉を貰うのは嬉しいし、いいことだと思う。

羨む者も多い。


だが、それよりも。

私は、ただ一人の女性を愛し、そしてその女性から心の底より愛されたいと願う。

その方がどれほどに幸せか。

想いの行き場をなくしてしまった私に、この先、そんな女性は現れるのだろうか。

このまま、一生、独身かもしれないな――――