“口止めされておりますので、私の口から詳しいことを申し上げるわけには参りませんが・・・。これだけは申し上げられます。アラン様、たまにはお寝坊なさってみてはいかがですか”


―――寝坊―――か・・・。


メイも無茶なことを申す。

昨日執務室にメイを呼び出し、最近のエミリーの様子を問いかけたところ、暫しの間考え込んだ後、返ってきた答えがコレだ。


エミリーのことであれば、どんな些細なことでも良い、何でも報告せよと、常日頃から申しつけておるのに。

この私よりもエミリーへの忠誠心の方が強く、いくら問いかけても「申し上げられません」と、口を固く閉ざしておった。

それ以上何も聞き出せぬまま「申し訳ありません。もう宜しいですか。やりかけの仕事が御座いますので・・・」とオズオズと申し、仕事に戻って行った。


私が寝坊することと、涙のワケと何の関係があるというのか。

もしや、私よりも早く目覚めたいと言うことか?


そうなのか?エミリー。


アランは静かに肘をついて半身を起こし、エミリーの体に布団をかけなおした。

頬にかかっていた髪を耳に掛け、そっと唇を落とした。

薄暗い中でもはっきりと映るエミリーの姿。


この安らかな寝顔を見ることが出来るのは、私だけだ。

この至極の時間は私にしか味わえぬ・・・。

寝坊をしてしまっては、腕の中で身を任せて眠る、この愛らしい姿を見ることが出来ぬ。


君が早起きしたいと申しておるのに、私も我儘だな・・・許せよ・・・。


大きな掌が詫びるように頬をそっと覆った。


それに、今朝の早起きはどのみち無理だ。

昨夜は、遅くまでこの肌を攻めてしまった。


今朝もゆっくり寝かせてあげねばならぬ。

君は早く起きることなど必要ないし、そんなことは考えなくても良い・・・。



しかし、君は早く目覚めたいと。カーテンがどうのと、昨夜はうわ言のように申しておったな・・・。



―――昨夜は―――

本当ならもっと早く帰るつもりでおった。

思わぬ事態に何度も仕事の手が止まり、済ませねばならぬ仕事がかなり滞ってしまった。


それゆえ、いつもよりも帰塔がかなり遅くなった―――