こんなに早口にしゃべってんの、見たことないよ。


「そうだなぁ、術式はベントール、トータルアーチかな。ヘミでもいけるか…開けてみて考えようか」


専門用語の嵐。

そりゃ田尾先生でも手放すくらい、マニアックな分野だもんな。


「道重先生、救命の研修医の先生がオペの見学をしたいらしいんですけど」

「ん?別にいいけど…」


振り向いて初めてオレってことに気づいたらしく、一瞬目があって驚いてた。

こっちもビックリだけど。

それでも、また道重准教授の顔に戻って、助手の先生たちと打合せをする。


「家族に同意とったら、すぐにオペ室に上がるよ。上は準備万端で待ってるらしいから」


父さんは、やっぱり心臓外科医だった。

学会でオペをしてる映像を見たことがあったけど、テレビの中の人みたいな存在で、現実味がなかった。


「じゃあ、堀池先生は家族と患者さんに説明してきて。あ、道重先生は堀池先生について」


“先生”とか言われて、複雑だ。

っていうか、父さんだって“道重先生”なんだから、ややこしいな。