点滴台にぶら下がった、毒々しい色をした抗がん剤の点滴。


「じゃあ深江くん、何か変わったことがあればナースコールしてね」


担当ナースが笑顔で言った。

この笑顔に患者さんたちは癒されてんだな。


「…先生?どうしたんですか?」


オレが点滴を見つめたまま動かないのを見て、担当ナースが不思議そうに声をかけた。


「はい、行きます」

「じゃあ、次は隣の562号室の…」


ほぼ流れ作業で患者さんたちの抗がん剤を投与していく。

この病棟ではもう“慣れっこ”なんだ。


「あの…やっぱ、先行って準備しててください。追いかけるんで」


そのまま流れ作業に戻る気になれず、オレは言った。


「準備って…すぐできますけど?」

「じゃあ1分だけ待っててください」


ナースは不思議そうにオレを見た。


「男同士の話」

「あら、そう?じゃあ先に行ってます」


何かを察してくれたのか、ワゴンを押して部屋から出て行ってくれた。

急に静かになる病室。

さすがに今日は大人しい深江数馬を見ると、病気の重さがわかる。


「…なに?同情でもしてんのかよ?」


ムッツリした顔で深江数馬は言った。