「はあっ??舐めてんのか!!テメェ!!!」
怒号と共に飛んできた飛沫を上手く避けられる様な反射神経なんて持ち合わせていない僕に今出来る事と言えば…
叩かれたカウンターの上から、コロコロと情けない音を立てて転がり落ちそうになったボールペンに、慌てて両手でストップをかける。それが精一杯。
「おいっ!!!テメェ、聞いてんのか、ああんっ??」
ほっ…とする間もなく襲いくる怒号第2段。…しかしよくもこんなに上手く舌を巻きながら話せるものだよなぁ…なんて感心してしまう程度には、僕も慣れてしまっているのだろうか……。
「おいっ!!何とか言えや、こらっ!!」
口を挟む間もない勢いで捲し立てられていたものだから、とりあえず落ち着くまで黙っていた方が良いのかな?なんて呑気に考えていた僕の服、胸ぐらと言われる部分を掴み、びよーんびよーん!と勢いよく伸ばす浅黒く太い腕。
流石に慌てて、軽く腰を浮かしつつ、その腕をぽん!ぽん!叩く。
「い、いや、あの…ですから、ね?僕はこちらの書類に記載されている内容通りに処理をさせていただくしか……」
「だからそれが納得いかねえってんだろが!!責任者出せや!!!」
「いや、ですから、っ…!」
「ああんっ??テメ、脳ミソあんのかぁっ??上のモン出せ、ってんだ!!テメェじゃ話になんねーんだよ!ボケがっ!!!」
ああ……顔が…顔が近い、っ……!飛んできたツバの感触が、っ…とてつもなく気持ち悪いぃっ!!
……最早何を言っても聞いて貰えるとも思えぬこの地獄の様な状況。長く横に続く受付カウンターに座る周りの「同僚」と言えば……
『うっわ~…佐伯君、また厄介なのに絡まれてる…。』丸出しな顔を、簡素に作られた仕切り板の下へとヒッソリ隠し。これまた『何事か?』と好奇心混じりにこっちへとチラチラ視線送るお客様が持ってきた書類の処理にお忙しい風。
……いつもながら薄情…と言うか、どーしてこうも僕は貧乏クジ引きまくるのか……それが問題…
「ごらっ!!!テメェ、なにボーッとしてんだ!!!」
あ、ヤバい…!忘れて…いた訳じゃないが、己の不幸を嘆いている場合じゃなかった…!
「いっ、いえ!けしてそんな…」
「ならさっさと責任者連れて……」
「はいはぁーい。どーしましたぁ~?」
唐突にノンビリと割り込んできた間延びした声。思わず涙目で振り返ればそこには……