今、流行りの本は一通り読んだ。


もっと沢山の作品を知りたくて、


私は母の部屋の本棚で、寂しそうに横になっている推理小説を
こっそり借りて読んでいた。



「なに、読んでるの」

耳元で、
ふわり、と、温かな香りがした。


また、勝手に入って。


そう思って呆れたが、そこには触れずに、

「推理小説。」

と短く答えて、また本に集中しようとする。

と、


「千影、お客がきたなら、会話を楽しんでもてなしなさい。」


母の口調を真似ておどけてみせる智人が、
なんだかおかしくて笑ってしまった。


「はいはい。お茶でもいかがですか?」

「あ、コーヒーとプリンがいーな♪」


図々しいな、
という目つきで睨んでみせたけど、


智人はカラカラと笑って、からかうように私を見た。



これじゃぁ、どっちが年上かわかんないじゃん。


台所に行って、コーヒーとプリンを持って部屋に戻る。


私の家の冷蔵庫には、プリンが常に置かれている。

私の、小さな頃からの好物だからだ。


智人は、甘えるようにして私に手を伸ばす。


やっぱり、可愛い。


はっきりした目鼻立ち


色素の薄い髪と瞳


骨格がしっかりしてきて

でもまだどこか幼い


そう思いながらプリンを手渡す。



幸せそうに食べるなあ、
と、智人を観察しつつ、自分も大好きなプリンをゆっくり口に入れる。


智人も私を見ながら食べていて、
お互い、見つめ合いながら黙って食べている姿は、きっと端から見たらおかしな光景だろう。



不意に、智人が言った。

「幸せそうに食べるなあ」

きょとん、としてから

「自分もじゃん!」

と突っ込んでみる。

「え、そっかぁ?」

と言いながらも、なんだか智人は幸せそうに目元を緩ませた。