家を出ると、
すぐ前にある、
朝日を受けて、さみしそうに建っている家の入り口から、
もういないはずの彼女の残り香がしたような気がして、
一瞬、足を止めた。
すると、その家の横にある木造の家から、
新しい制服に身を包んだ小柄な男の子が出てきた。
あれ、智人じゃん、
と気さくに話しかけてきたのは、大工の息子の優斗だった。
今年、真ん中の弟と一緒で、高1になる彼は、
遠い高校に通うために、早く出なくてはならなかった。
軽く話をして、
じゃぁ、と言う彼の後ろ姿を見送っていると、
高1になりたての自分を思い出した。
俺、坂井智人は、中2の夏、坂井のおじさんに、養子として引き取られた。
両親が事故で帰らぬ人となったから、らしい。
そんなわけで、この土地にやってきた。
そして、
彼女に出会った。
彼女のすることはなんでも、眩しかった。
彼女の指先は、なぜかいつも温かかった。
彼女は、心を溶かす、不思議な魔力を持っていた。