多分、はぐらかされたのだと、思ったんだろう。 緩やかな風がふわっと、頬を撫でる。 口元が緩んだ。 彼の匂いがする。 私の、胸元から。 首筋から。 全身から。 あの夜、彼が、残していってくれたもの。 彼が、 悩み、苦しみ、 最期まで、願ったこと。 それが、死後に叶った、という事実は、皮肉なものかもしれない。 こんな事ってあるんだな、と、何度、不思議に思ったことか。 彼は、今も、私に棲んでいる。