「うん、話てみると、謹厳実直な人ってわかるし。頭も良いんだろうね。博士で、ユーモアのセンスもあるから、為になるよ。」



「そこまで知ってるのに、なんで名前は覚えてなかったのよ。」



「あ」


「何?」


「あの人、名前、なんだっけ」


麻美は、
はぁ、と、呆れたように溜め息をついた。


「後藤さんでしょ。本当に、名前覚えるの苦手だよね」



「興味ない人の名前、覚えるのって無駄な気がして」


そう言うと、聞いていた麻美は、不思議そうな顔をした。


「聞いてみたかったんだけど、千影って、誰かのこと本気で好きになった事ってあるの?」


「なに、突然」


「突然じゃないって。聞いてみたかったって、言ったでしょ。ねぇ、本気で男の人を想ったこと、ある?」



本気で聞いてくる麻美に一瞥をくれてから、あるよ、と言った。


「え!じゃぁやっぱり、今もずっと、その人のこと忘れられないんだ」


「なに、やっぱりって」

思わず、噴き出した。


「だって、千影って決してモテない訳でもないし、むしろ言い寄る男も多いだろうに、彼氏作らないじゃん」



「忘れられない、ていうか、忘れようなんて、思ってないし」


「え?もしかして、彼氏いるの?誰、誰?」


「私」




「…は?」


「私、自分の事、愛しちゃってるから」



呆れた顔で、
もう、そーじゃなくて、と、麻美がむくれた。