抱き合っているとき、
彼は必至に、
何かを私に植え付けるように、
愛撫し続けた。
ただただ、必至に。
肌が擦りあうたびに、
彼の匂いが、私のものになるような、
私の中へ吸収されるような、錯覚が起こった。
彼となら、暗い未来に堕ちてもいい。
目が覚めると、
彼はいなかった。
煙草と、ライターもなくなっていた。
違和感を覚えたが、
気にせずに彼の帰りを待った。
しかし、
1日、2日、3日…
いつまで待っても、彼は来なかった。
4日目の夜、
携帯が鳴った。
母からだ。
何故だか、出てはいけないような、
出たくないような。
背中に、冷たいものが流れた。
「もしもし」
「千影…
智人君が…事故で、一昨日、亡くなったって…」