彼女のマンションへ入ると同時に、
俺たちは、抱き合った。
この1年の溝を埋めるように、
互いが欲するままに。
「堕ちるとこまで、堕ちよう」
いつまでも、涙を流す彼女を、
ずっと、抱きしめていた。
この1年は、
生きている、というよりは、
動いている、という感覚だった。
彼女の香りも、
声も、
笑顔も、
体も、
指先の温もりも、
何も感じられない。
彼女は、俺から逃げた。
怖くなり、逃げたんだ。
東京よりも、さらに遠いところへ。
けれど、きっとすぐに、気づくだろう。
俺と同じ気持ちで、悩まされるだろう。
彼女はまだ、わかってないんだ。
離れたって、無駄だということを。
すぐに、引き戻してやる。
彼女は、泣き疲れたのか、気を失ったのか、
裸のまま、ベッドの上でぐったりとしていた。
俺たちの絶望的な未来は、着々と迫っている。
逃れようのない、
暗くて、深い、
決して明るくはない、
未来。
「2人一緒なら、いいよ」
薄れてゆく意識の中で、彼女は言った。
息を荒げ、
堕ちるとこまで、堕ちよう、と。
でも本当に、いいのか?
俺は、彼女を、そんな未来に引きずり込むのか?
どうするべきか、
ここへ来る前に、とっくに決めていた。
テーブルから、煙草とライターを拝借し、
ドアを開けた。
堕ちるとこまで、堕ちようか。
俺だけで、十分だろ。