帰って、部屋に戻ると、部屋いっぱいに、彼の空気。

心地よくなった。


智人が、顔を真っ青にして、
ベッドに、ぐったりと座っていた。


「どうしたの」

という私の質問には応えず、

私の体を引き寄せて、

ギュッと、力を込めて、抱きしめた。


鼻の奧に、甘いものが、流れる。






動揺を、隠せない。


でも、決心は、揺らがない。




「夢を、見た」

ぽつり、彼は、言った。


「千影が、いなくなる、夢」


彼の声が、かすれて、震える。


「泣いてるの?」


答えは、ない。





「どこにも、いかないよな?」


「………」


すがるような、
脅迫するような、強くて、弱々しい声。


「…まさか、東京、行く、の、か?」

答えない私を見て、不安げに、そう呟いた。


「…東京なんて、行かないよ」

力なく、私は答えた。





東京には、行かない。





彼が、口で、私の口を、塞いだ。







慣れた手つきで、服を脱がす。

あの、呪いを、囁く前に、



私は、そう思って、


彼の口を、塞ぐ。






意味のないことだと、
知りながら。