「お……っ」
呪いの言葉が、耳元で囁かれる。
「お……っ」
恐怖が、体中を包む。
だから、必死で、抗う。
「いやだ…たすけて!」
空を見上げると、
もううっすらと暗くなった空から
ちらちらと明かりのような雪が舞っている。
この季節になると
私の心臓が、
きゅうっ、と、なるのがわかる。
「あつっ」
顔を出していた窓から、私の声が外に響いた。
煙草の火が、指のすぐそこまで迫っていた。
と、
後ろで、裸で本を読んでいた智人が、
煙草を、
ひょい、と取り上げ、
飲みかけの缶コーヒーの中へ落とした。
「あぶねーなぁ」
そう言って、顔をしかめた。
「ゴメン」
私の声など聞いていないように、
手をつかみ、火傷をした指に、
じいっ、と視線を落とした。
「大したことないな」
ぺろ、
彼が舐める。
ぺろ、ぺろ、
「智人」
視線だけをこちらに向けて、まだ舐める。
「休みの日くらい、勉強しないと」
ふっ、と目元をゆるめ、
「今更焦っても、意味ないんじゃないっけ?」
意地悪そうに、にやりとした。
「うん、そのはずだったんだけど、」
私は一旦、言葉を切った。
「だったんだけど?」
「大学受験は、そうもいかないみたい」
「そんなにレベル高くないだろ、あの大学」
ドキッ、
「うん…でも、不安で」
「…ふーん」
服を着始めた。
私の目を、じっと見て、ため息のように言った。
「なにが、不安なんだか」
空は、もう、暗い。
私は、机に向かって、必死に、勉強に専念していた。
ふと、頭の隅を、あの呪いの言葉がよぎる。
「お……っ」
何か、真っ黒いものが、
私たちを襲っているような、
隠しているような、
変な気持ちになった。