タバコの火を揉み消して、
千影は俺を見た。


じっ、と、睨むように。


俺の瞳の、奥のほうを、見ているのだろうか。

千影の瞳は、漆黒だ。

映っているのは、俺だ。

ただ、
本当の、奥の方に、
何があるのか。


このあいだ、

一瞬、見えた気がした。

『た………』


薄く、霧がかかったような、記憶の中に

よく聞き取れない、

呪文のような言葉と、

覗き込んだ、その瞳の奧に、
何かに戸惑い、

怯える、彼女がいた。








「ねぇ、」


唐突に、彼女が言った。

「もしも、私たち、このままずーっと、一生、一緒にいたら、どーなると思う」


よく考えずに、

「さあ、やっぱり、一緒に、いるんじゃないの」

と答えたら、

「真剣に、考えて」

と、真顔で跳ね返された。

しばらく考えていると、

千影は哀しげに、

「私と、智人だけに、なっちゃいそう」

ぽつりと、言葉をこぼした。


「……俺と、千影だけ?」

よく意味がわからなかった。



やはりここ最近、千影は何かに怯えている。






不安は、伝染する。




ここ最近、俺も、
得体の知れないものに

怯えていた。




不安を消すように、


千影の唇に、自分の唇を、重ねる。


柔らかいそれは、
少し震えていた。