横を歩く彼女の、
揺れる髪を見た。

最近になって伸ばし始めた、その髪を触ってみる。


ふわっ、と、
彼女自身の、匂いがした。


高2の終わりに染めたっきりの髪は、
根本の部分が黒くなって、
毛先の明るさと、
緩やかな癖を、際立たせていた。


なに?という風に、
俺を見上げ、小首をかしげる。

前より小さくなった。

実際、俺が伸びてるんだけど。


「大学、決めたの?」

「まだ」

首を振って、唇を尖らせる。
「智人が、しつこく口を出すからだよ!」

ここ最近、俺は、
県内の大学を受けるように、千影にうるさく説教し続けている。

ふん、と、
鼻で笑ってやった。




俺達が、離れて暮らせるはずがないと、確信していた。


離れたら、
俺たちの関係の、意味はない。




だから、
進学する大学をあれこれ迷っている千影が、
わからなかった。


将来の夢は、もう決まっているらしいし、

この辺の大学は、レベルの差が激しい。


どういう事を学びたいのか、はっきりしているなら、
大学はもう決めてもいいと思っていた。







千影の部屋に入り、
机の上に目をやると、

参考書と、
筆記用具、
読みかけの本、など、

色んな物が積まれて、
前よりもかなり窮屈そうだった。

千影が、
ふう、と息をつき、

ベッドにどさりと腰を下ろして、

引き出しを明け、タバコとライターを取り出した。

その秘密の引き出しの中に、
ピンクの袋が入っているのがわかった。


タバコに火をつける彼女の横に座り、


その横顔を覗き込む。


すると、濃厚に漂ってくる、
彼女の香りが、

あなただけに、

と、

俺に語りかけてくるように、


鼻を、耳を、
全身を、撫でた。


一体、今まで何回、
この香りに
酔って、溺れたことか。

いまではすっかり、
虜になってしまった。