この春一人暮らしを始めた学生マンションに帰って、
重たい荷物を玄関にどさりと置いた。
着ていた花柄のワンピースとタイツを脱ぎ捨て、
ジャージに着替えてベッドに倒れ込む。
すると次第に、
私の体が、捜し始める。
次に、
私の脳が、
いないんだ、と言い聞かせる。
私の中で、バランスをとれない。
ベッドの横のテーブルに置いてある煙草の箱とライターに手を伸ばし、
けだるく一本取り出して、火をつける。
細い、白い線を目で追って、
途中でくにゃくにゃと曲がっているところを見て
私みたい。
そう思った。
吸った煙を吐き出すようにして、口を開けた。
原因はわかっている。
彼、だ。
携帯を操作してみる。
『坂井智人』
しばらく、発信ボタンの上で手を止めていた。
脳がまた私に命令する。
ダメ、ダメ。
気がづくと、携帯の電源を切っていた。