母さんのお母さん、
つまり私のおばあちゃんは、
その時代には珍しい、教育ママだったらしい。
母さんは、出来の良い兄と弟に挟まれて育った。
最近は酔っぱらうと、父さんの愚痴と、
その頃の窮屈な生活を、私にぶちまけてくる。
母さんは弱い人だ。
そんなわけで、
せめて受験するからには落ちないで、
というのが、
母の中に染み付いたおばあちゃんを
全力で抑えた母の答えだった。
しばらくしてからあきらが、
来た、と言って笑った。
そろそろと、床に擦れる靴下の音が部屋の中にも漂ってきた。
あきらがチラリとこっちを向いて、
ほーらね、というように、にんまりした。
「あれ、あきら」
智人はノックもなしに入ってきて
そこにいるあきらに気づくと、いつものように
あきらの髪の毛をくしゃくしゃと乱した。
その動作は、
私が、あきらにする癖でもあった。
あきらは満足したのか
にっこり智人に笑いかけて、
部屋を出て行った。
「何しに来てたんだ、あいつ」
「さぁね」
そう冷たく言い放つと、
私の座る椅子の後ろに回って、
「なに、怒ってんだよ」
と、面白がるように、
私の顔を覗き込んだ。
急に、彼の空気が流れ込んできて、
くらっ、と、
目眩がした。
いつからだろう。
この匂いに、酔うようになったのは。