「あ、雪」
窓の外を見て、小学4年の妹がぽつりとつぶやいた。
11月の後半にきた初雪。
雪は、嫌いだ。
この、約9年間の学生生活の中で、
冬の登校ほど憂鬱なものはなかった。
家の中から見ている分には、いいけれど。
「ところで、いつまで姉さんの部屋にいる気?」
受験勉強の邪魔をしないで、
と言うように、
じろり、と妹を睨んだ。
実際、
今更焦っても意味ないし、焦る気もなかった。
妹は私を一瞥して、
「のりとが、来るまで」
と言った。
「会う約束なんてしてないけど」
「でも、よく姉さんの部屋に来るでしょう」
「だからって今日くるとも限らないでしょ」
「来るよ」
確信があるのよ、というように、はっきりと妹は言った。
妹のあきらは、智人によく懐いている。
あまり他人に興味を持たないあきらが
智人に懐く理由がわからなかった。
正直、
年が離れているのもあって、
真ん中の妹よりも、私の方に寄ってくるあきらが
私以外の人間に懐いているのは寂しい気もした。
「あきら、姉さんの勉強の邪魔しないの」
母さんが私の勉強の様子を見に来た。
私の受ける学校は、県内で中間くらいのレベルで
母さんは始め、
好きなところを受けなさい、
と言っていたのに
実際、模試の結果で出た私の学力よりも
いくつか下のレベルを受験する事にしたら、
不満げに顔を歪めた。
母さんの目指す理想の母と、
実際、母になって痛感した、
自分に染み付いた教育方針が抜けないことに、
母さんは最近イライラしていた。