家に入ると、小6になった猛と、
小3になった翔が

「兄ちゃん!」
と、飛びついてきた。

「たける!」「かける!」


大きくなった。


この坂井家は、
俺の従兄弟だった。


しかし、本家で集まるのが当たり前だったので、この家に来たのは初めてだった。




リビングには、仲良くしている近所の仲間たちが待っている、
と坂井さんは言った。


仲間たち、
と聞いて、気が重くなった。


リビングに入ると、
苦くてやわらかい、
不思議な香りがした。


しかし、それはもうそこにはいない誰かの、

残り香みたいだった。


少し賑やかなリビングが、一瞬、静まった。

「智人、くん?」

落ち着いた、
愛嬌のある顔立ちの女の人が、

ぱっと顔に明かりを向けたように、

眩しそうに、こっちを見た。



「はい」

「ようこそ、いらっしゃい!」
「ほら、みんな、智人くんがきたよ!!」

急に、みんなして声を張り上げる。


ここにいる全員が、俺に気を使っているのがわかった。

小さな子供までも。


居づらくて、
苛立ちが収まらずに、
それを持て余していると、




ふわり、と、
また、あの香りがした。

さっきのように、微かではなくて。


今度は、濃厚に。