レジから死角になっているそこを、数歩進んで見に行くとやってしまったというように額に手を当てながら項垂れている大きな影が一つ。

「また派手にやったな」

遼がそう声を掛けると、棚が外れて雪崩を起こしたのであろうポテトチップスの袋が散らばる中から、眉を八の字にさせている陽平が情けなくこちらを向いた。

「そんな顔するなよ」

「…奥のを取ろうと思ってちょっと力掛けただけだぜ…」

「わかってるよ。ほら、今は客いないし早いとこ片付けようぜ」

「そうだよな! 女の子とかみんなダイエットしたがってこんな夜中にお菓子なんて買いに来ねえよな? でもさ、夜中でも何でも美味しそうにニコニコ食べてる方が可愛くない? 一緒に食べながら『そっちも一口ちょうだい!』みたいな」

「ああ、それで付き合った女の子に『一緒にいると太る!』って言われてフラれるのが陽平のパターンだっけ?」

「今のすっげぇ傷抉られた。俺もう無理。帰っていい?」

「いいから早く棚戻せって」

その時、来客を知らせる音楽が店内に響いた。

やばい。

棚も床はまだ散らかっており、煩い客だと指摘してくることだってある。いや、指摘ならまだいいが、クレームに発展することもあるのだ。

二人は屈んでいる為に客の姿は見えないが、コツコツと足音が近づいてくる。

出来ればお菓子コーナーに用がない人であって欲しいと願ったが、その願いは儚く散り、足音はきれいに二人の背後で止まった。苦情を言われるより先に謝ってしまおうと、陽平と遼は顔を見合わせて勢い良く立ち上がり、足音の主に向けて頭を下げた。

「散らかしていてすみません! すぐ片付けますから!」

そう告げるも相手から反応は無い。

恐る恐る顔を上げると、子供の頃に読んだ童話のお姫様みたいな女の子が、斜めに崩れて空の状態になっている棚を眺めながら立っていた。



横顔しか見えないが、鎖骨あたりまでの艶やかしい真っ直ぐな黒髪も、雪みたいな白い肌も、口紅は塗っていないだろうピンク色の唇も、大きな瞳を飾る長いまつげも、ふわふわしたコットン素材の白いワンピースも…



全てがこの世のものではないと思わせるほど綺麗で、遼と陽平は見事なまでに目を奪われていた。