「今日、やっぱり雨降るのか?」

首を傾げて見遣れば、違うのかという顔で陽平が話し出す。

「今日、曇りのち雨の予報なんだって。さっきもネットでも調べたんだけど、十八時以降の降水確率六十%らしいぜ」

「それは結構な数字だな」

「だろ!? 俺と結衣ちゃんの初デートなのに雨降ったら祭りも中止になるだろうし…。あぁーっ! 絶対降んなよ!! 降らないでくれーっ!!!」

文字通り空に向かって叫ぶ陽平に通行人の視線が集中している。前を通り過ぎたオヤジの口が「うるせえ」って動いたことになんて、こいつは絶対気づいていない。そろそろ止めようかと遼が顔を向けた時、陽平がぽつりと呟いた。

「それに、織姫と彦星も会えねえじゃん」

「またそれか」

反射的に返せば陽平は珍しくムッとしたようで、こちらを睨むように見ている。

「遼はもっと恋する気持ちを勉強しろよ!!」

「一応、恋はしてるつもりだよ」

「恋してるって…、初恋のアレか?」

「ああ」

「おまえの場合特殊だけど…。まあ、確かに恋だよな、恋。でも、それならもっと織姫と彦星の気持ちになって考えてみろって!! 一年に一回しか会えないのに、それも叶わないかもしれないんだぞ!!! 可哀想だろ!!?」

「全然」

「なんでだよ!!?」

ヒートアップしていく陽平に仕方ないなと口を開こうとした時、可愛らしい声が陽平の名前を呼んだ。

「陽平君!」

その声に振り返れば栗色のショートヘアの女の子が小走りで駆け寄って来るのが見えた。どこかで会ったような気がするが、気のせいだろうか。