待ち合わせ場所である神社に近づくにつれ道行く人も増え、浴衣姿の女の子が祭りに華を添えている。幼い子供のふわふわした帯が揺れる様は金魚のようだ。

「遼!!」

石段まであと数メートルというところで名前を呼ばれて辺りを見渡せば、石段に腰掛けながら両手を振っている男が目に入る。

ランニングの時同様に髪を一つに括り、麻の葉模様のエンジの甚平を着ている陽平だ。今日この日の為に買ったのか、甚平姿なんて初めて見た。一方の遼は、ベージュのクロップドパンツに、襟元と袖口にラインの入った白シャツと、デニムベスト。それにベージュの中折れハットに黒縁眼鏡といったラフな服装だ。

特に浴衣や甚平を着て来いとは言われていなかったが、これで良かったのだろうかと少し考えてしまった。今更着替えに戻る時間もないけれど。そう自己完結したところで、陽平の前に到着した。

「よう、相変わらず早いな」

「そりゃあ、女の子を待たしちゃ男が廃るだろ」

「違うな」

「ん?」

「楽しみと緊張で、じっとしていられなかったんだろ? 普段俺との約束には遅れて来るくせに、彼女とのデートとか遠足だと必ず待ち合わせ時間の三十分前にはいるもんな」

「うっ…」

陽平は図星だったようで足元にあったいくつかの小石を蹴っている。何歳になっても変わらないその癖にひとつ笑って隣に腰掛けると、陽平の視線が赤い傘に注がれていることに気づいた。

ああ。あの時陽平は瀕死状態だったから覚えてないのか。遼は自分の物じゃないと説明しようとしたが、陽平の言葉に遮られてしまった。