「おまえさ、これから店入るのに普通靴汚すか?」

後ろから様子を見ていた塚原陽平が、いたずら現場発見というように声を掛けてきた。

陽平と遼は幼稚園からの幼馴染であり、今はバイト仲間だ。

一歩間違えばちぐはぐになる柄物の服を器用に重ね着していて、ガタイもかなり良い。サングラスなんて掛けたら子供なんて絶対近寄れないタイプだと思う。

実際は底抜けに明るくてよく笑う、少年のような奴だけど。

遼は自分のもやもやとした気持ちを説明したところで上手く伝えられないだろうし、陽平も理解出来ないだろうと思い適当に流すことにした。

「真っ白すぎると神経質そうとか潔癖性みたいに思われるから嫌なんだよ」

「ああ、絵美ちゃんとか言いそうだよな」

「そこで人の妹の名前を出すなよ」

「俺が女だったら『遼君ってきれい好きなのね! 絶対A型でしょ?』って思わず惚れちゃうかもぉ」

陽平はお祈りのポーズのように指を絡ませながら身体をくねらせている。

「そのオカマっぽい言い方やめろって」

「それにしても女の子って血液型とか会話に持ち出すの好きじゃね? この前行った合コンでも占い本みたいの持ってた子いたし。なんで?」

「さあな。でも会話を盛り上げる為のひとつにはなるんじゃない?」

「そっか。あ、遼は俺と同じく自由奔放なB型君だと思ってたんだけど大雑把なO型君だったっけ?」

「いや、俺は几帳面なA型。それに何回も言ってるけどB型と一緒にすんな」

「…あれ、なんかB型ってみんなに嫌われやすい傾向にあるの? これ気のせい?」

「気のせいだろ。ほら、十分以内に着替えないとやばいから急ぐぞ」

そんなふざけ合いに遼のトゲトゲした苛立ちは丸みを帯びていき、スニーカーの汚れに少しだけ眉を下げた。