ガッシャーン!!!

街中に響く衝突音と数名の悲鳴。その元を辿れば、右足を抱えて蹲る少女と、倒れたまま車輪だけがカラカラとまわる自転車。そしてそれに振り落とされたのか地面に横たわる遼と、何が起きたのかわからないといった風の少々ガラの悪い四人の男子高校生がいる。ちなみに悲鳴を上げたのは、今しがた起きた事故を目撃した通行人達だろう。

事故の一部始終はこうだ。

男子高校生に絡まれて苛立った少女がリーダー格の少年を蹴り上げようと右足を振り上げた瞬間、黒い自転車に乗った遼がその間に割り込んだ。その際、少女の足は自転車の前輪に巻き込まれ、遼はそれによってバランスを崩して転倒したのである。

呆然と立ち尽くしていた男子高校生達は複数の通行人が集まってきた為か、早足でその場を離れていく。それはもう、轢き逃げ事件を起こした犯人のように。

一方、当の犯人である遼は打ちつけた肩を摩りながらゆっくりと体を起こした。

「痛ぇ……」

とりあえず頭はぶつけてないが右肩がとんでもなく痛い。絶対明日は紫色になっているだろうと思いつつ、隣で蹲る少女に近寄る。

遼が動いたことに安心したのか通行人は自然と散っていったが、少女は全く動く気配がない。遼の心臓はバクバクと飛び跳ねていた。まるで心臓だけが別の生き物として活発に行動を始めたようだ。

心配する気持ちが大半を占めているが、ほんの少し、本当にあの時の彼女だろうかと…なぜだか期待する自分がいる。

「あの…、大丈夫?」

そっと顔を覗き込むように聞くも反応がない。

膝に顔を埋めている為、表情も確認出来ない。だが微かに震えているように見えて、壊れものに触るよう肩に手を置いた。あまりの細さに驚いたが、ぐっと握ることはせず軽くゆする。

「大丈夫? 本当、驚かせてごめん…」

「……いわ……でしょ」

「え?」

反応があったことに少し安心し、何と言ったのか聞き直そうと耳を近づけた。

その時。

「大丈夫なわけないでしょ!! 馬鹿っ!!!!!」

大きな怒声とともに頭突きを食らわされた。