自転車置き場に向かう途中、鞄に入れっぱなしにしていた携帯電話に手を伸ばすと新着メールが二通届いていた。

一通は絵美からで、帰りにいちごミルクを買ってきて欲しいというおねだりメールだった。短く《了解》と返信を送り、もう一通を確認する。差出人は陽平のようだが、件名には《名前判明!》とある。

訝しげに開いてみると、以前陽平が顔も声も可愛いと連発していた、朝のお天気コーナーのお姉さんの名前がわかったとのこと。そしてその後には、先日運命の出逢いを果たした(らしい)結衣ちゃんという女の子について長々と語られている。

遼は携帯電話を持ち替え、友人フォルダから陽平に電話を架けた。

流れるメロディーコールがエグザイルの新曲に変わっており、遼はサビが一通り終わるまで聴いていたいと思った。しかし、残念ながらワンフレーズほどで途切れてしまい、代わりに耳に入る声は聞きなれたもので。

「すぐ出るなんて暇だったのか?」

少し厭味も込めて言ってやったが、陽平は感じ取れなかったらしくベラベラと話し出す。

《聞いてくれよ! 俺、あんなにお天気お姉さんの名前知りたかったのに、さっきオカンから聞いても『へえ』で終わっちゃったんだぜ!! これってやっぱり俺の気持ちがもう結衣ちゃんに向いてるってことだよなあ。川村さんには悪いけど、これ恋だよ、恋》

「へえ」

《それに、あんなストレートに『結衣ちゃんのことが知りたい』ってアプローチしちゃった後のお誘いにオッケーくれるってことは……実はあっちも俺に一目惚れ!? フォーリンラブかな!?》

「へえ」

《…おまえさ、俺の淡い想いを『へえ』で流すってどういうこと? あれですか、無駄知識扱いですか》

「そんな淡い想いを俺に語るより、結衣ちゃんって子に直接言えってこと」

遼が呆れながらそう言うと、陽平は照れ屋がどうとかロマンチックな雰囲気がどうとかを語り出した。それもどこで息継ぎをしているんだと思わせるほど矢継ぎ早に。