今のはどういうことだ?

昨夜の一連の流れからして、あの少女に年齢を聞く暇などなかったはずだ。ということは…。とくんとくんと早くなる鼓動を抑えるように腕を組んで問うてみる。

「あの子に会ったのか?」

「ランニングしてたら偶然な。あのマンションの下に公園があってさ、そこに友達と一緒にいたんだけど、昨日とは別人かって思うくらいすげぇ楽しそうに笑ってたよ。俺が声掛けたらこんな顔になっちゃったけど」

陽平は指で目尻をつり上げる仕草をしてみせた。どうやらまた怒らせたようだ。今度はどんな暴言を吐いたのだろう。

「それでさ、一緒にいた友達がそりゃあもう可愛くて! 結衣ちゃんっていうんだけど、なんかこう…お姉さん気質みたいな感じでいいんだよなあ。今度の七夕祭り一緒に行こうって誘っちゃったもん」

メールアドレスも交換したんだと自慢気にケータイの登録画面を見せてくる。どうやら陽平の恋の相手とはその友達のことらしい。これ以上あの少女についての話は出なそうだと思い、幸せそうな表情をこぼす陽平に「良かったな」と伝えて部屋に戻ろうと背を向けた。その時。

「七夕祭り、遼も行くんだからな」

さも当然のように言う陽平に、首だけで振り返る。

「さっき店寄って店長にシフト変更頼んだから」

「何勝手なことしてんだよ…」

「だって知り合ったばっかの男と二人っきりじゃ、結衣ちゃんが緊張しちゃうだろ?」

「男二人に女一人の方が嫌だろ」

「三人じゃねぇよ。俺とおまえと、結衣ちゃんと真白。真白ってあの眼帯少女な」

待ち合わせ場所と時間が決まったら教えるからと言うと、停止している遼をそのままに陽平は鼻歌混じりに帰って行った。





一週間降り続いていた雨が降らなかったあの日。

僕は思いがけず、君の名前と次に会う約束を手に入れた。

呆然としながらも壁に掛けられたカレンダーの七月七日のマスに、直ぐ様予定を書き入れてしまった理由が、今ならわかるよ。



―――台風発生の恐れあり。

『比較的穏やかに進んでいた日常を脅かす、台風が発生する恐れあり。それはまだ小さく、今後の動きは予測不可能…』