「…大丈夫?」

時間にしたら数分程度だろうか。その場に残された結衣は、まだ起き上がれない陽平の顔を覗き込むようにしゃがんだ。目元に溜まった涙が先程の威力を物語っている。

「…マジ痛い。あの子マジで強烈すぎじゃない!?」

「ふふ。凄いでしょ。でも陽平君も悪いんだよ?」

その後、「だってね」と続いた言葉に陽平は目を見開くことしか出来なかった。

「真白は私と同い年。つまり高校二年生なの」

固まる陽平の意識を呼び戻すように、その頬を軽く人差し指でつつく。陽平は今しがた発された言葉をゆっくり頭の中で繰り返した後、覚醒したかのように大声で笑った。

「あんなチビのくせに高二!?」

「女の子に向かって失礼ね! それじゃ馬鹿男って呼ばれても仕方ないわ…」

やれやれと呆れ顔をした結衣に、陽平は「違う違う!」と必死で両手を振ってアピールする。その姿に口元を緩ませると、結衣は近くにあったブランコに腰掛けて言葉を続けた。陽平ものっそり立ち上がると体についた砂を軽く払い、隣のブランコに腰掛ける。こんなに低いものだったのかとバランスを崩しそうになりながら。

「真白とは中学生の時に知り合ったんだけど、その時から全然変わらないの。身長も、体型も…。まるで成長を拒否してるみたいに」

「何それ。ピーターパンシンドローム的な?」

「……」

「…すみません」

「それでね、あの眼帯は…」

「眼帯は?」

そこまで話すと結衣は途端に口を噤んでしまった。

下を向いたまま動かなくなった結衣を今度は陽平が覗き込む。すると、パッと顔を上げた結衣が柔らかく微笑んだ。この表情にさっきからドキドキと胸が高鳴ってしまう。

「今日はここまでね。陽平君ってなんか話しやすくてペラペラ喋っちゃったけど、これ以上勝手に話すと私が真白に蹴られちゃいそう!」

「え…、あいつって女の子相手でも容赦ねえの!?」

「そうだよー! だから続きは真白に聞いて。でも無理には聞かないでよね!」

「まあ、俺はあいつより結衣ちゃんのこと聞きたいんだけどね」

あ、つい本音が。そう言って手の平で口元を覆うと結衣はまたクスクスと笑った。