「昨日は真白が一発入れちゃったみたいでごめんなさい」

申し訳なさそうに眉を下げながら、両手を合わせる仕草に陽平はときめいた。横では眼帯の少女が「謝る必要ない」とか「こいつが悪い」とか言っているがもう気にしない。

「いや、俺も何か気に障ることしちゃったみたいだからおあいこでしょ」

「わあ! 優しい人で良かったね、真白!」

「おまえ、真白っていうのか」

陽平はふと視線を下げるが、真白は眉間に皺をぐっと寄せて「勝手に呼ばないで」と一言呟いてそっぽを向いてしまった。

思わず可愛くないなと言いそうになったが、真白よりも彼女の名前を知りたいと気を取り直して陽平は視線を戻す。

「出来れば君の名前も知りたいんだけどな」

「あ、ごめんなさい。私、横山結衣っていいます! 百合ケ丘高校の二年生!」

「結衣ちゃんか。俺は慶靖大学一年の塚原陽平。敬語いらないし、陽平でいいよ。ていうか陽平って呼んで」

「ふふっ。じゃあ陽平君って呼ばせてもらおうかな」

「オッケー、オッケー。真白も俺のこと陽平君って呼んでいいから。ついでにな!」

名前を聞き出せた達成感と自分の名前を笑顔で呼んでもらえた嬉しさに、上機嫌で真白にも声を掛けるが「アンタなんて馬鹿男で十分よ」と一刀両断されてしまった。

なんでこんなにも棘々しいのだろうか。昨夜短時間の内に何度コンソメパンチと言わせるのかと怒っていたが、確実にそれ以上のペースで馬鹿男呼ばわりされている俺は一体何なんだ。

「ねえ、結衣ちゃん。真白って似てないけど妹ちゃん? 反抗期か何か知らないけど、凄い攻撃的じゃない? 眼帯もかなりパンキッシュだし」

こっそり結衣に耳打ちをしたが、その声は真白に届いてしまったらしくピクリと体が動いた。

瞬間、真白は昨夜よりも勢いをつけて再度陽平の股間をボスッと音がするほど蹴り上げた。

陽平は防御も逃避も間に合わず、見事にクリーンヒットしてしまった為、地面に蹲り唸ることしか出来ない。

「この馬鹿男っ! 一回死ねっ!!」

真白はそう吐き捨てるとズンズンと足早にマンションへと踵を返して行った。