「泊めてくれてありがとね」

制服に身を包み、ヘアもメイクも完璧に支度を整えた結衣が笑う。

まだ六時半を過ぎた頃で登校時刻には早いが、一度荷物を自宅に置きに帰り、そのまま朝食を食べることを考えれば丁度いい。

一方、真白は昨夜と変わらずスッピンのまま左目には真っ赤な眼帯を掛け、パジャマの上からグレーのパーカーを羽織っただけの恰好だ。

髪にほんの少し寝癖がついているが、当の本人は気にせず大きな欠伸をこぼしている。

「もう! 聞いてる? 昨日、泊めてくれてあーりーがーとー」

「別に…結衣がお礼言うことないわ。ママから泊まりに来てくれって連絡あったんでしょ?」

「そうだけど…」

「ほんと心配性っていうか、子供扱いっていうか…」

「でも真白の家泊まったの久々だったし、楽しかったよ! シャワールームとバスルームで部屋区切られてるし、あんな広いお風呂普通の家じゃ入れないもん! だから、ありがとう」

段々表情が険しくなる真白にストップを掛けるように言葉を紡ぐ。

自分の気持ちをすぐに察して反応してくれる。結衣はかけがえのない親友だと心のど真ん中で思いながらも、素直になれない真白は口元だけ緩めて笑った。

「あーっ! 今庶民の感覚に対して笑ったでしょ?」

「そうね。今度は高級入浴剤入れて、薔薇の花びらも浮かべてあげる」

「えー、いらないよー! それに昨日真白だけバスボム入れて入ったでしょ? 投げられたタオルも含めて、全身からめちゃめちゃセレブな匂いしたし」

「セレブな匂いって何よ」

「『セレブ=薔薇』みたいな?」

「馬鹿じゃないの」

「またそういうこと言うんだから! もう…くすぐってやる!!」

「ちょっと! どこ触って…きゃははは!」

結衣が素早く真白に抱き着き、こちょこちょと脇をくすぐると、可愛らしい笑い声が公園に響いた。