いつもよりも高めの温度の湯を頭から浴び、そっと湯船に浸かると、やはり冷たい雨に体温が奪われていたようで指先がじんじんする。握ったり広げたりを数回繰り返し、感覚が戻ったところでお気に入りのバスボムを一つ入れた。

出掛ける前、結衣にお風呂にでも入って待っててと言っていたので湯船は溜まっていたし、バスボムから漂う薔薇の香りで気持ちも落ち着いてきた気がする。

ブクブクと形を崩しながら薔薇の香りと花びらを出し続けるバスボムを、時たま手に取り包むようにして眺めていた。

「こんな風に…きれいだなぁってアタシを喜ばせても、アンタは消えちゃうんだよ。それってバカバカしくない? アンタはそれで満足なの…?」

返事がされるはずもなく、問い掛けた声は微かに反響してから湯気とともに消えていった。

すると、洗面所のドアをノックする音が聞こえ、カチャリと人が入ってきたことがわかる。

「真白ー。タオルの上に着替え置いとくからねー!」

スモークガラスの扉越しに見える結衣に「ありがと」と伝えて手の平を見れば、溶け切らなかった細かい入浴剤の欠片だけが残り、花びらは浴槽を泳いでいた。

軽くシャワーを浴びるだけだったことも忘れ、指先がしわしわになるまで湯船に浸かっていた真白は頬を桜色に染めた状態でバスルームを出た。

柔らかなタオルに体を包み洗面台の鏡の前に立つと、隠すものが何もない左目を数秒見つめ、ぐっと握った拳を鏡の中のそこを目掛けて勢い良く前に突き出すが、寸前でゆっくりと指を開きそっと添えた。

「バカバカしいのは私も一緒…か…」

毛先から流れ落ちる水滴が線になって頬を滑る。



泣いているように見えたその姿に、再度握った拳を今度は強く叩きつけた。