だが、通りを見渡しても既に少女の姿はなかった。店を出ればすぐに分かれ道となっているので、どちらに進んだかなどわかるはずもない。全身濡れてしまった状態で店へ戻ると、いつの間に来たのか、深夜番のスタッフ二人が床に転がっている陽平を見て笑っていた。

「あ、篠田君、お疲れ様。もう二十三時だから上がっていいよ。ていうか塚原君が変なのはいつものことだけど、篠田君も傘持ってるのに何で濡れてるの?」

「ああ…急に嵐が来っていうか…」

「え?」

「いや…これ今出てったお客さんの忘れ物で。とりあえず追い掛けたんですけど、足の速い人だったみたいです」

遼は軽く傘を掲げて、返せませんでしたという仕草をした。

「へえ、こんな大降りなのに変な客だね」

「ええ、本当に」

「それに傘って引き取りに来る客少ないしさ。まあ月末にでもまとめて処分するから、拾得物入れの中にでも突っ込んどいてよ。奥にあるの知ってるでしょ?」

「わかりました。それじゃあお先に失礼します。あ、あと佐々木さんなんですけど、腰痛そうだったんで早退してもらいました。後でタイムカードで確認してください」

「了解。じゃあ、お疲れ様」

「はい、お疲れ様です。陽平、帰るぞ」

「うぅ…」

唸る陽平に声を掛けて足早にバックヤードへ向かうと、ロッカー横にある『拾得物用』と黒いマジックで書かれたダンボール箱に赤い傘を突っ込んだ。