「俺、君が怒ってる理由わかった!」

いきなり何を言うんだこいつは。

サスペンスドラマでこれから犯人を解き明かす探偵のような雰囲気の陽平に、遼は嫌な予感しかしない。

「こうやって俺達がしゃがんだのが子供扱いされた気がして勘に触ったんだろ? お兄さん達は接客する時のマナーでやったんだけど、ちっこくても女だもんな! 悪かった! ごめんな!」

にかっとした邪気の無い笑顔で、少女の頭をガシガシと無遠慮に撫でている陽平に店内の空気が止まった気がした。

このバカ、余計怒らせるようなことを言いやがって。

しかし、乱暴に撫でられて乱れてしまった髪をそのままに、少女は顔を上げて意外にもにこっと微笑んだ。それは棘々しい薔薇の花が可憐なチューリップにでも変化したような柔らかい笑顔で。

鈍感な陽平の読みが珍しく当たったのだろうかと、遼は納得は出来ないまでも胸を撫で下ろした。

…が、次の瞬間。少女は陽平の股間を思いっ切りバコッと蹴り上げて言い放った。

「本っ当に馬鹿ばっかりね! もういいわ!!」

床に転がって悶える陽平が「待て!」と力無く叫んだが、ぴたりと立ち止まった少女は唇の片端だけを持ち上げて、見事なまでにしてやったり顔をしている。

「もう一発欲しいなら戻ってあげるけど?」

皮肉たっぷりの一言を残して、少女は振り返ることなく店を出て行った。遼は呆気に取られていたが我に返り口元を手で覆う。

「すげえ女……ん?」

ふと外の傘立てに目をやると真っ赤な傘が一本残っている。先程の少女の物だろうか。

だとすれば、ざあざあと降り続いているこの雨の中をどうやって帰っているのだ。

「マジかよ…」

遼は軽く頭を掻いてから今だに悶えている陽平を跨ぎ、その手で傘を引っ掴んで店を飛び出した。